AIと人間の比較から考える「問いを立てる力」

「問いを立てる力」が語られるとき、その背後にはAIと人間についての暗黙の評価がある。整理するとこうなる。

<AIが得意なこと>
与えられた問いに対して、膨大な情報を参照しながら整合的な回答を生成すること。パターン認識、類似事例の参照、論理的な推論、複数の選択肢の提示。

<人間が得意なこと(あるいはそのように言われていること)>
問題の本質を見抜き、そもそも何を問うべきかを判断すること。文脈を読み、価値観を反映させ、組織や社会の中での意味を問うこと。

 この対比から「AIは答えを出す機械、人間は問いを立てる存在」という結論が導かれるのである。

 しかし、この整理には粗さがある。「問いを立てる」という行為を丁寧に分解すると、複数の異なる能力が混在していることがわかる。

(1)    現象の中に違和感や矛盾を察知する力
(2)    その違和感を言語化し、問いの形に変換する力
(3)    複数の視点から問いを組み立て直す力
(4)    無数の可能な問いの中から、この文脈において最も意味のある問いを選ぶ力

 この4つのうち、少なくとも最初の3つについては、AIもすでに相当な能力を持ちつつある。

AIにも「問いを立てる力」はある

 AIはすでにかなりの水準で「問いを立てる」ことができる。

 たとえば、筆者の専門領域であるリスクマネジメントの分野では、(外部クラウドサーバーに頼らない社内サーバーや手元のパソコンにダウンロードした生成AIで)分析対象の企業の規模、業態、ビジネスモデル、事業の発展段階、競合とのポジショニング、財務諸表などを認識させ、どのようなリスクが存在する可能性があるかを問えば、あらゆる角度から多様な可能性を表示してくれる。

 さらには、当該企業について公開情報だけをもとにして、オープンソースのAIに聞けば、関連業界や同規模の会社などとも比較して、考慮すべき内容を提案してくれる。勝手に「問題意識」を持ってリスクの領域を拡大縮小しながら、問いを出してくれるのだ。

 プロンプトの工夫次第で、この傾向はさらに広がる。

「全く異なる業界での解決策を参考にして考えよ」「法制化反対の立場から問い直せ」「アリソンモデルの3パターンを参考に、どのような意思決定の過程があったかを想定せよ」といった指示を与えれば、AIは驚くほど多様な問いのバリエーションを展開する。

 つまり「問いを生成すること」「多様な視点から問いを展開すること」については、AIはすでに人間に匹敵する、否、ある意味で人間を超える能力を持っている。

 では、人間の「問いを立てる力」とは何が違うのか。ここが本質的な問いになる。