「また責められるのではないか」少年院の保護者会を恐れていた母親が変わった瞬間【マンガ】『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社

児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている『ケーキの切れない非行少年たち』(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第25話『積み重ね』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。

私はもう自信がないんです

 万引きを何度も繰り返し、少年院に入院することになった手塚陽翔(仮名)。その母である手塚真理恵(仮名)は、少年院で「陽翔には知的障害の可能性がある」と告げられます。

 そして、出院後に福祉的な支援を受けられるよう、療育手帳の取得も勧められました。しかし真理恵は、息子に障害があるという事実をすぐには受け入れることができませんでした。

 一般に、子どもの障害を知らされた保護者が、その事実と向き合うことは簡単なものではありません。告知を受けた後、ショックや否認、悲しみ、怒りといったさまざまな感情を経て、長い時間をかけて少しずつ向き合っていくものだと言われています。

 さらに、非行少年の保護者は、子どもが少年院に入るまでの間に多くの人に迷惑をかけ、そのたびに謝罪を繰り返してきています。その結果、子育てへの自信だけでなく、自分自身への自信まで失ってしまっていることも少なくありません。

 少年院の保護者会に参加する際でさえ、「また責められるのではないか」と警戒している保護者もいるほどです。真理恵の中にも、「陽翔のためとはいえ、これ以上つらい話を聞きたくない」という気持ちがあったのかもしれません。

 そのため、 少年院の職員に心を開くまで時間がかかる保護者も少なくありません。 著者も少年院で保護者と話す機会がありましたが、少年のためを思って伝えた言葉に対して激しく怒られ、強く謝罪を求められたこともありました。

 当時は戸惑う こともありましたが、社会の中で長く責められ続け、「親として失格だ」と思わされてきた保護者たちが、どこかでそのストレスを吐き出したい気持ちも理解できました。

 ところが、真理恵の気持ちは次第に変わっていきます。面会の際、陽翔の態度が大きく変わっていたのです。

 これまで反抗的だった陽翔が、面会に来てくれた母に対して、大きな声で「来てくれてありがとうございます」と感謝の言葉を伝えたのです。真理恵にとってそれは大きな驚きでした。

 実はこの言葉は、少年院の職員が何度も指導し、練習させていたものでした。しかし真理恵にとっては、「こんなにも変わるのか」と感じる出来事でした。

 少年院に対して抱いていた警戒心は次第に信頼へと変わり、「もう一度頑張ってみよう」という希望が芽生えていきます。まさに「子どもが変わると大人も変わる」のです。

 こうして真理恵は少年院の職員にも少しずつ心を開き、息子の障害と向き合い ながら、一緒に前に進んでいこうという気持ちを持つようになります。そして同じような立場の保護者が集う保護者会への参加も考え始めます。

 原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院で勤務した経験があります。この作品は、その経験をもとに執筆した『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)のコミカライズ版です。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!

『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社