もちろん、いくら燃え尽きていてもその後の人生に特段の支障がないというのがFIREの1つの恩恵ではあるので、1~2年くらいは何も考えずにぼんやりしていてもいいと思うが、生活のメリハリがない状態があまりに長く続くと、過度な飲酒や運動不足といった不健康な生活習慣が定着してしまうリスクも高くなる。10年早く仕事を辞めることができても、15年早く健康を失ってしまえば、自由に活動できる時間はかえって減ってしまう。

 これではFIREの価値は半減である。心身とも健康的に生きるためには、やりたいこと・楽しみなことをたくさん持っておいて、生活のリズムを作っていくことが大事だろう。

FIRE願望を持ってない人の
働きがいは高まっていくはず

 FIRE願望を持っていない人(定年まで、あるいはそれ以上に働くつもりの人)の場合は、FIREが増加する時代に向けて準備しておくべきことはあるだろうか。逆説的だが、この人たちは「長く働くための準備」をすることがよさそうである。

 なぜなら、FIREの増加に伴って労働需給のひっ迫が進めば賃金には上昇圧力がかかり続けることが想定される。つまり、「働くこと」に対する報酬は大きくなっていく可能性が高いため、金銭的な意味での働きがいはどんどん高まっていくはずである。働くことが苦にならないのであれば、この報酬を長期間にわたって獲得しに行くのが経済的には合理的である。

 いわゆる60歳定年を大きく超えて長く働くためにはそれ相応の準備が必要である。この点について論じた書籍(リンダ・グラットン&アンドリュー・スコット〈2016〉『LIFE SHIFT』)が10年ほど前にベストセラーになったことをご記憶の方も多いだろう。

 つまり、技術革新のスピードがそれほど速くなく、かつ労働年数が短い時代であれば、20代前半までに学校で学んだことをベースに適宜のアップデートを加えていけば30~40年働き続けることも可能だったし、実際、過去数十年にわたって多くの人がそのような形で職業人生を送ってきた。

80歳まで働かないといけない時代
スキルのリフレッシュが必要

『働く人が減っていく国でこれから起きること』書影働く人が減っていく国でこれから起きること』(河田皓史、朝日新書)

 一方、技術革新のスピードが速く、かつ80歳まで働かないといけないような時代においては、学生時代に学んだ知識がどこかで完全に陳腐化してしまう可能性が高く、キャリアのどこかでスキルセットを本格的にリフレッシュする機会が必要になる。80歳までのキャリアプランを展望したうえで、どの時期に「学び直し」を設定するか、またそもそも何を学ぶかという点を常に考え、戦略的に動くことが必要になるというのは、『LIFE SHIFT』が指摘する通りだろう。

 結局のところ、医療の進歩等により寿命(健康寿命)が大きく伸びてきたという現実に対して、社会制度も人間の意識も十分に追いついていないことが、様々な摩擦を生んでいるという見方もできるのではないか。この点、「人々が結婚を求めなくなった」という現実に対しても、やはり社会制度・人間意識の両面で適応が遅れているように思う。

 逆に言えば、なかなか変わることができない社会制度・人間意識を所与として、それに適合するように、人々の結婚願望を再び高めることのほうが現実的との発想もあり得る。