ボルトが叩き出したのは、ゲイの記録をさらに上回る驚異的なタイムだった。

■男子100メートル走 9.58秒(世界記録)※第12回世界陸上ベルリン大会/2009年8月16日=独国・ベルリン。
■男子200メートル走 19.19秒(世界記録)※第12回世界陸上ベルリン大会/2009年8月20日=独国・ベルリン。

 このボルトの異次元のパフォーマンスによって、ゲイの偉業は埋もれてしまったわけだ。

 同じ場所に規格外の人物が1人いたせいで、日の目を見なかった才能や努力。スケールこそ違えども、世の中には同じような事例が無数にあるだろう。

 会社の同期にたまたま「神営業」がいるばかりに、十分な評価を得られない優秀な営業マン。同じ市場に「革新的なイケイケのユニコーン」が存在したため、優れた技術を持ちながらシェアを取れなかった企業。

 彼らは努力が足りないのではない。ただただ運が悪かっただけ。

 やり切れない話?そうとも言い切れない。むしろ僕はそうした事態に希望を感じてしまう。心がラクになる。

「努力すれば必ず報われる」と信じて疑わない迷信のほうが、人を追い詰めるのだ。

 運の巡り合わせは、努力でどうにかなる問題ではない。だからもし現状に納得できないのであれば、やることは一つしかない。

 居場所を変えるのだ。別のマイナー競技に宗旨替えする。強い相手がいない業種にくら替えする。

 運そのものをコントロールするのは不可能だ。でも成功確率の分母は減らせるのである。

運を変えられなくても
勝率は上げられる

 どんなに才能に恵まれて、実力を兼ね備えていても、チャンスが回ってこなかったら埋もれてしまう。

 野球でいいパフォーマンスを見せるために必要なのは、努力も大事だけど、何よりバッターボックスに立つ回数を増やすことだろう。これが、ホームランを打つ可能性を高めるいちばんシンプルな方法だ。

 ただ、それは指揮官の判断にゆだねるしかない。だったら、自分自身にいつものパフォーマンスが出せるよう暗示をかけるほかないのではないか。