建物は1970年築、築54年。床を踏むと根太が腐って沈む箇所がある。室内にはピアノや着物、生活用具がそのまま残されていた。売却するには残置物の処理から始めなければならない。
土地面積は833平米(約210坪)。坪10万円の地域なので、土地の値段だけなら2100万円の計算になる。しかし豪邸の解体費用がそこに乗ってくるため、実際にはその値段では売れない。そして更地にすれば固定資産税の軽減措置が外れ、税負担が跳ね上がる。先ほど説明した「建物があるから税金が安いが、建物があるから売れない」というジレンマだ。
「こうした地方の空き家を買う人はいるのか」という問いに対して、私の答えはこうだ。住宅需要がゼロではないエリアなら、土地を安く設定して居住用として売るか、地元の分譲会社に建売用として仕入れてもらうか、どちらかだ。自分で解体費用を負担するより、その分を値引きして買い手に解体を任せるほうが、結果として手残りが多くなることもある。無理して解体する必要はない。
問題は、地方の多くのエリアでは、こうした選択肢さえ成り立たなくなっていることだ。坪単価が数千円、あるいは値がつかない地域では、土地の値段が解体費用を下回る。
東京圏を除く地方の6~7割の地域で、不動産の価値は静かに崩れ続けている。地方で「子どもに家を残したい」と高額な家を建てた人ほど、その家が負の遺産になっていく現実を、この現場は静かに語っていた。
心身を消耗させる
ゴミ屋敷の遺品整理
建物の外側が「放置」の問題なら、内側には別の問題が潜んでいることがある。
亡くなった親や家族が生前からゴミや荷物を溜め込んでいて、死後に遺族が途方に暮れるケース─いわゆる「ゴミ屋敷」の問題だ。社会問題として広く認知されるようになったが、私の仕事の現場でも決して珍しくない。都市部でも地方でも、同じような案件が繰り返し発生している。
ゴミ屋敷には大きく2種類ある。粗大ゴミを外から拾ってきて溜め込むタイプと、通販などで物を買い込んで、その箱を開けもせず積み上げていって部屋をいっぱいにしてしまうタイプだ。私の経験では、前者は高齢者が多く、後者は比較的若い人が多い。
『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』(滝島一統、PHP研究所)
いずれのタイプでも本人の自覚は薄く、家族が何度言っても聞かないというケースが多い。そして、ゴミよりも先に「ゴミを生み出す人間をどう退去させるか」が問題で、住民が高齢者であれば本人が亡くなるまで待つしかない、ということも少なくない。
お金の問題は、その部屋が空いた後に顕在化する。遺族が片付け業者を手配することになるが、一軒家がフルに埋まっている状態では150万~200万円の費用がかかることもある。解体費用に匹敵する金額だ。ゴミの山の中から小型犬の死骸が発見されて、追加の処理費用が発生したこともある。
片付けの現場に立ち会うと、「ようやく片付けられる」と呟く遺族からは、故人を偲ぶ感情よりも、ゴミ屋敷に心身を消耗させられた徒労感を感じることのほうが多かった。
片付け作業の途中で、息子さんが「このクソ親父」と口走る。その言葉の裏には、何年もかけて親を説得しようとして果たせなかった無力感と、それでも何かできたのではないかという後悔と、湧き上がる怒りとが、複雑に絡み合っているように思えた。







