つまり、本来は「安全運転に必要な認知機能を評価するための手段」であったはずの検査が、いつのまにか「免許を維持するための目的」に変わってしまったのです。
企業でも起きている
“すり替わり”現象
企業の世界でも、測定可能な指標が目標へとすり替わってしまう現象は、日常的に見られます。
特に売り上げや件数などのわかりやすい数値は、進捗や成果がどの程度進んでいるのかを評価するKPIとしてよく用いられるものです。
営業部門であれば、KPIが個人の評価やボーナスに直結することもあるでしょう。すると、多くの従業員の意識は、自然と「どうすれば数字がよく見えるだろうか」という方向へと向かっていきます。そうなると、「どうすれば顧客により良い価値を届けることができるか」という、本来あるべき目的が次第に薄れていってしまいます。
この問題は、数字そのものを追い続けているうちに、数字を支えるための「作業」が膨張してしまう場面にも表れます。
たとえば、職場によっては上司への報告資料や進捗レポートの作成が重視されるあまり、営業担当者が外回りに割ける時間が大きく削られてしまうことがあります。本来は売り上げにつながる顧客の訪問に出かけたいのに、報告書づくりに追われて時間が奪われてしまうという状況に陥ってしまいます。
こうした状況では、売り上げを高めるという目的よりも、「報告書を仕上げる」という手段のほうが優先されてしまうのです。
報告資料やレポートというのは、現状を把握するための「手段」にすぎないはずです。しかし、それらが評価の対象になり、過度に重視されるようになると、「売り上げのための行動」よりも、「測定される項目の対応に時間を割く行動」に最適化されていきます。すると、指標を良く見せるための作業が膨らむ一方で、顧客との関係づくりや商談といった、本当の意味で価値を生み出す活動が押しのけられてしまうのです。
業績や業績予測に目を奪われ
長期的な目標が後回しに……
『「数値化」中毒 なぜ手段が目的に変わるのか』(小塩真司、PHP研究所)
このような状況は、組織全体の短期的な目標への焦点づけを助長していきます。上場企業では短期的な業績や業績予測が、株価を左右する重要な指標とされます。やはりこのような中では、経営層は「今期の数字をどう整えるか」に強く引き寄せられ、研究開発や人材育成といった長期的な目標を後回しにしがちになるのではないでしょうか。
経営陣が報告資料や進捗数字の調整に慎重になるほど、現場にも「数字を守ること」への圧力が強まり、「目に見える指標」への価値ばかりに焦点が当てられていくかもしれません。
本来KPIは、進捗や成果を評価するために役に立つ指標です。しかし、KPIが重視されればされるほど、それ自体が目的になっていくということがしばしば起きるのではないでしょうか。
短期的なKPIへの集中は、営利活動の中でも本来の価値を提供するための活動から焦点を奪い、手段であるはずの指標の目的化を促していくのです。







