ただ、同作は刑事ドラマではなく、一緒に仕事をしたのもこの一度だけだった。それでも水谷は、「とてもアイデアが豊富な方」だと感心していたのである(『水谷豊自伝』、164頁)。

銃撃戦やカーチェイスはもちろん
派手なアクションすらない

 松本基弘らとともに『相棒』のプロデューサーを務めた香月純一から演出の話を持ちかけられた和泉もまた、輿水脚本に魅せられた。

「まずストーリーが今までの刑事ドラマと全然違うところから入っていて、切り口が面白かった」。そしてこうも思った。「セリフが活き活きしてて、リアリティーがある。拳銃を持ったりはしないんだけど、セリフの中にいろんな感情とアクション的要素がいっぱいあるので、これをアクション劇で撮りたい」(『オフィシャルガイドブック 相棒』、136頁)。

『相棒』は、銃撃戦やカーチェイスのような派手なアクションシーンが売りの刑事ドラマではない。ここで和泉聖治が言いたいのは、セリフに込められたエモーショナルな感情の動き、その意味でのアクションを演出の力で表現したいということだろう。

 和泉演出の特徴のひとつは長回しである。早速それは、プレシーズン第2話で威力を発揮した。クライマックスの場面、右京による謎解きが続く。オンエア上は回想場面が挟まれたが、現場では8分以上に及ぶ長回しの撮影だった(『杉下右京10years』、12頁)。

 このときは水谷豊のほうが演技を止めなかったというが、そこには感情の動きをぶつ切りにせず、演者のリアルな息遣いを伝えたいという和泉の意図もあっただろう。

『相棒』ファンにはおなじみの右京の“プルプル”(感情が高ぶると、セリフを言いながら頬がプルプルと震える)なども、そうした演者と演出の阿吽の呼吸から生まれたものかもしれない。

『相棒』の元タイトルは
「ゴールデンコップス」?

 水谷豊が、そして和泉聖治も絶賛した『相棒』初回の脚本は、具体的にどこが従来の刑事ドラマと違っていたのか?

 輿水によれば、企画書段階でのタイトル案は「黄金刑事」というものだった。「ゴールデンコップス」と読む(『相棒 season2 上』、373頁)。