ハリウッドのバディものを意識したそうだが、「刑事」を「コップ」と読ませる刑事ドラマは、それ以前から日本にもあった。藤竜也と世良公則が主演のバディもの『ベイシティ刑事』(テレビ朝日系、1987年放送開始)はそのひとつ。横浜を舞台にしたアクションもので、バブル期を感じさせる軽くオシャレな作風になっている。輿水の「黄金刑事」にもそんなニュアンスが感じられる。

 だが2時間ドラマは、男女の愛憎や遺産相続などが絡み、ドロドロした人間の欲望の生々しさが売りのものが主流。結局このタイトル案は通らなかった。しかし、輿水は脚本の随所に2時間ドラマの既成概念を超えた新しいアイデアを盛り込んだ。

 まず、杉下右京の人物設定。

 1970年代から活躍する水谷豊にはすでに代表作があった。

『傷だらけの天使』(日本テレビ系、1974年放送)では、萩原健一演じる探偵事務所の調査員を兄貴と慕うチンピラ、『熱中時代』(日本テレビ系、1978年放送)では子どもたちと真摯に向き合う新任の小学校教師。一見正反対の役柄だが、一途でどこか憎めないという点では共通する。

 特に主演を務めた『熱中時代』は最終回の視聴率が40.0%を記録するなど、社会現象になった。それから時は過ぎて水谷も年齢を重ねてはいたが、そのとき植えつけられた実直さのイメージは根強かった。

水谷の実直なイメージとは
正反対の慇懃無礼な杉下右京

 それに対し、輿水泰弘が考えたのが「敬語で慇懃無礼なキャラ」という癖のある役柄だった。表情ひとつ変えずに辛辣なことを言う皮肉屋である。

 プレシーズン第1話では、右京がミスをした亀山薫(編集部注/杉下右京の初代相棒)に対し、無表情に「無様」と言い放つ。輿水が水谷のマネージャーに確かめても、「そういう役は覚えがない」という返事だった(『オフィシャルガイドブック 相棒』、132頁)。

 要するに、変人である。協調性に乏しく、自分の興味の赴くままに振る舞う。だから事件の関係者に会いに行っても、通り一遍のことは聞かない。また自分の好きな趣味に関するものを見つければ、事件のことそっちのけで相手と話に花を咲かせてしまう。