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「賃上げ5%達成」「過去最高水準のベースアップ」――そんな景気のいいニュースが続く一方で、「給料は増えたのに暮らしは楽にならない」という実感を抱く人は少なくない。給料が上がっても豊かになれないのはなぜか。政府や財界が期待を寄せる「賃金と物価の好循環」は、本当に私たちを豊かにするのだろうか。※本稿は、経済学者の齊藤 誠『日本経済を診る――シン・競争の作法』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
交易条件の改善を伴わない賃上げは
どこかに皺寄せがやってくる
2024年末ころ、労働組合の団体組織に寄稿していた拙稿について、編集部から、一文だけ、削除を要求された。その文章とは、
《「賃上げは従業員の努力のたまものです。もちろん、お客様には値上げでご迷惑をおかけしません」と淡々といいのける経営者は出てこないものか。》
というくだりであった。
拙稿の一文は、従業員が要求する賃上げに必要な原資は、製品値上げ(「値上げ」というとあからさまなので「価格転嫁」といわれている)でまかなうという労使の合意に対して批判をしている。そうした合意は、政府や財界からの支持も受けてきたことから、社会的合意といったほうが正確であるかもしれない。
労働組合の関係者たちは、20年代の労使協調の賃上げ交渉が上述のような社会的合意のうえに成り立っていたことを深く認識していたので、拙稿の一文の削除を求めてきたのであろう。私は、経済学の分析内容への干渉でなかったことから、削除の求めに応じた。
通常、労使協調の賃上げとは、労働生産性が大きく向上して(すなわち、従業員が努力をして)、交易条件(編集部注/商品市況の高騰で原材料を海外から高値で買って、国際競争の激化で製品を海外へ安値で売らざるをえない状況)も改善したところで(付加価値が企業内に留まって)、企業のパイが増大したときに、その分け前を賃上げの形で従業員も享受するというものである。







