従来の刑事ドラマに照らしてみても、このキャラクター設定は新しかった。刑事ドラマと言えば、犯人にも同情してしまう人情派刑事かワイルドな風貌で犯人と派手な格闘を繰り広げるアクション派刑事。この二つのどちらかと相場は決まっていた。そのどちらでもない主人公像を狙ったわけである。
こうした右京のキャラクターは、刑事というよりは私立探偵に近い。輿水泰弘も「右京は名探偵のイメージです」と明言する(『ダ・ヴィンチ』2014年6月号、21頁)。
実際、劇中では右京が「和製シャーロック・ホームズ」と呼ばれる。元々刑事ドラマには推理ものの要素があるが、正式な捜査権がないのに捜査をしてしまう特命係という設定、そして超絶推理で華麗な謎解きを披露する杉下右京のキャラクターは、きわめて私立探偵的だ。
ではなぜ探偵ものにしなかったのか?松本基弘によれば、「素人探偵ものは、主人公が事件に関わるまでにどうしても多くの段取りを踏まなくてはならない。その点、刑事は、ダイレクトに事件に関わり、なおかつ捜査をするのが仕事。やはり刑事がいいだろう」ということになった(『相棒 警視庁ふたりだけの特命係』、247-248頁)。
社会派で硬派な作風に
人気面を不安視されたことも
もうひとつ輿水がこだわったのは、社会派の要素を盛り込むことである。輿水は、『第一容疑者』や『心理探偵フィッツ』といったイギリスのミステリードラマのファンだった。そこでは、女性刑事が上司に性的暴行を受けるといった場面がリアルに描かれる。それは、「刑事=ヒーロー」である従来の日本の刑事ドラマにはなかったものだった。
輿水は、そうした固定観念にとらわれず社会問題や政治的なテーマ、時にはタブーとされているような題材を物語に盛り込んだ。劇場版の第3作『相棒‐劇場版3‐巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』(2014年公開)で国防をテーマにしたのもそのひとつだ(『ダ・ヴィンチ』、21頁)。
早速プレシーズンの第3話でも、長年議論されている安楽死の問題が絡んでくる。
『「相棒」大全 25周年を迎えた傑作刑事ドラマ大研究』(太田省一、星海社新書)
このようにして『相棒』は生まれた。この時点ではまだ連続ドラマ化が決まっていなかったので、あくまで『土曜ワイド劇場』のなかの1シリーズという扱い。後にシーズンを重ねるようになって、2時間ドラマ時代の『相棒』計3作は改めて「プレシーズン」と呼ばれるようになった。
ただ、試みの新しさゆえに当初はテレビ朝日局内で不安視されていた。2時間ドラマの視聴者層は女性が多く、男性2人のコンビものは絶対に当たらないと思われていたからである。
だが松本は、水谷豊と女性を組ませるのが常識的なセオリーではないかという反対意見を押し切った。
そして2000年6月3日に第1作が放送。17.7%と当時の2時間ドラマとしては高視聴率を記録した。さらに第2作に至っては、22.0%という20%超えの高視聴率。第3作の視聴率も17.4%と堅調で、ここから連続ドラマ化のプランが一気に具体化し、『相棒』は現在の長寿シリーズ化への道を歩み始めることになる。







