「何を言いたいのかわからない」「話が長くて結論が見えない」。そんな人は、頭の回転が遅いわけではありません。『言語化だけじゃ伝わんない』では、話がまとまらない原因は「ワーキングメモリ」にあると語られています。その意外な仕組みを紹介します。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

イライラするほど「話がヘタクソな人」の特徴・ワースト1

イライラするほど「話がヘタクソな人」

「この人、何が言いたいんだろう?」

 話を聞いていて、そんなふうに感じた経験はありませんか。
 話があちこちに飛ぶ。
 途中で話題が変わる。

 本人も「何を話そうとしていたんだっけ?」と止まってしまう。
 こういう人を見ると、「話すのが苦手なんだな」と思いがちです。

 しかし、『言語化だけじゃ伝わんない』という本では、その原因はもっと根本的なところにあると語られています。

人は一度に一つしか話せない

 まず本書では、話すことそのものの難しさをこう説明しています。

私たちが頭の中を文章にするとき、「言葉を一列に並べなければいけない」という文章の制約のせいで、考えをまるっと伝えることができなくなっています。
2つの考えを同時に語ることができれば、選択に迷う必要はなかったのに。
1つを選ばないといけないから、言葉にしていない考えが渋滞してしまいます。
もしそれをすべて言葉に変えていくなら、長い長い時間がかかってしまうでしょう。
これは、迷路の中でゴールを目指して歩いているとき、「分かれ道」に出くわした状況にも似ています。
ゴールに向かうためには、どちらか1つの道を選ばなければいけません。
そして、前に進んで行ったら、行き止まりがくるまで元には戻れないのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 頭の中では、いくつもの考えが同時に浮かんでいます。

 しかし、言葉は一列です
 だから、「どの話から始めよう」と迷うだけでも、大きな負荷がかかります。

「何を話していたっけ?」は脳の仕組みだった

 本書では続いて、その理由を説明します。

「あれ、いまなんでこの話をしてたんだっけ?」
人と会話をしながら、こんなふうに思うことがあります。
それまで何を話していたか忘れてしまった。
本当は何を言おうとしていたか忘れてしまった。
まるで、暗い洞窟の中を、たいまつを片手に歩いているような感覚です。
いま目の前にあるものだけは見えている。
でも、前後に何があるかはわからない。
これは、「ワーキングメモリ(作業記憶)」の働きが原因で起きる問題です。
ワーキングメモリとは、必要なことを必要なときだけを覚えておくタイプの記憶です。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 この「たいまつ」のたとえは印象的です。
 私たちは話している最中、全体像を見渡しているわけではありません。

 いま口にしている言葉だけを照らしながら、一歩ずつ進んでいるような状態なのです。
 だから少しでも別のことを考えると、もともと話そうとしていた内容を見失ってしまいます。

ワーキングメモリには限界がある

 さらに本書では、こう続きます。

たとえば、映画館やコンサートに行くと、自分の座席番号を把握する必要があります。
「F列の21番」は……と考えながら席を探す。
トイレに行っても、F21を覚えていて、すぐに戻ってくることができます。
ところが映画が終わると、座席番号はすっかり忘れている。
これがワーキングメモリです。
ワーキングメモリは、いま自分が話していることを覚えるためにも使われます。
次に話すことをキープしておくためにも使われます。
問題は、ワーキングメモリには上限があるということです。
ふつうの人でだいたい、同時に8個くらいのことしか覚えていられないそうです。
だから「いま何を言おう?」と考えたり、「この言葉遣いでいいかな」と考えたりしていると、どんどんメモリが消費されていきます。
そして「さっきまで話していたこと」を忘れてしまうのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 つまり、話がまとまらない人は、能力が低いわけではありません。
 頭の中で処理することが多すぎるのです。

「どう話そう」
「この表現でいいかな」
「次は何を言おう」

 そんなことを同時に考えているうちに、肝心の話の本筋が消えてしまいます。

話がうまい人は、脳に余裕をつくっている

言語化だけじゃ伝わんない』は、「話し方」の見方を変えてくれます。

 話がヘタな人とは、考えがない人ではありません。
 むしろ、考えすぎている人です

 だからこそ、話すときには一度にすべてを伝えようとしないことが大切です。
 まず一つ話す。相手の反応を見る。そこから次の話につなげる。

 ワーキングメモリに余裕が生まれれば、話の道筋も見失いにくくなります。
 話がうまい人とは、頭の回転が特別速い人ではありません。
 限られた脳のメモリを上手に使いながら、一歩ずつ相手をゴールまで案内できる人なのです。

(本記事は、書籍『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』を元にしたオリジナル記事です。)

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。