それに対して東京、京都、大阪あるいは福岡などで最低でも4年間、楽しく刺激的な生活を送った22歳の若者への、それでも地元に帰って来るかという問いかけでは、問いの本質が違うのではないか。

 そしてその問いの本質の違いに、多くの自治体、多くの大人、多くの男たちは気がついていなかった。あるいは見てみないふりをしていた。

 特に若い女性たちに対しては、まったくこの認識の変化が追いついていなかった。私はこれを『木綿のハンカチーフ』シンドロームと呼んでいる。

『木綿のハンカチーフ』型の
地方創生はもうムリ

 太田裕美さんのこの名曲が大ヒットしたのは1976年(発売はその前年末)、昭和で言えば51年になる。この歌詞は、「出て行く男/残る女」「はなやいだ街/草にねころぶ地方」「都会で流行りの指輪/木綿のハンカチーフ」といった対比で構成されている。いまの若い世代が聞けば、いったいいつの時代のことだと思うだろう。

 いまは女性が出て行って戻って来ない。豊岡市は前述のように18歳の7割以上が外に出る。それでも20代で男性の5割近くが帰って来る。しかし女性は約25%しか帰って来ない。

 今世紀に入って、ずっと同じような状況が続いていたはずなのに多くの自治体はこれに気がつくのが遅れた。そして町に若い女性がいなくなり、慌てて「少子化」と騒ぎ出した。

『寂しさへの処方箋 芸術は社会的孤立を救うか』書影寂しさへの処方箋 芸術は社会的孤立を救うか』(平田オリザ、集英社)

 若い世代に選ばれる、とりわけ女性に選ばれる町を作らなければならない。「Iターン」がもてはやされ、報道などでも話題になるが、移住の主力はいまも「Uターン」あるいは出身の近隣を選ぶ「Jターン」だから、やはり「戻りたくなる町」を作っていかなければならない。

 私としては、このようなことを文字通り10年1日、いや20年近く繰り返し述べてきたのだが、2025年1月の施政方針演説で石破茂総理(当時)が、地方創生について以下のような発言をして驚いた。

「第1の柱は、『若者や女性にも選ばれる地方』です。若者や女性が『楽しい』と思えるような新しい出会いや気づき、そこから生まれる夢や可能性が重要です」

 これは明らかに私の著作からの引用だと思うのだが、特にそのような連絡はなかった。まぁ誰がそれを実行しようとも、理想が政策化し実現してくれるのならばありがたい。