苦労して習得した技術、時間をかけて作り込んだ資料。手放すのは惜しい――。その“もったいない”という気持ちが、いまの時代にはむしろ足を引っ張ることがある。話題の書『AIで終わる人 AIで化ける人』(中平健太・著、ダイヤモンド社)が指摘する、意外な落とし穴とは。

AIで終わる人Photo: Adobe Stock

「ここまでやったのに」が、手を止める

何年もかけて磨いてきたスキル。残業して仕上げた資料。
新しいやり方に切り替えようとするたび、
「せっかくここまでやったのだから」「元を取らないともったいない」
――そんな声が頭をよぎることは、ないでしょうか。

じつは、その感覚には名前がついています。
「サンクコスト(埋没費用)の呪縛」です。
すでに支払ってしまい、もう戻ってこないコストに引きずられて、合理的な判断ができなくなる。
過去の積み上げを守ろうとするその姿勢は、一見すると誠実ですが、変化の速い時代には、重い足かせになりかねません。

値下がりした株を、握りしめていませんか

そのことを、少しドキッとする例えで言い表した一節があります。

「3年かけて習得したプログラミング技術」も、「1週間かけて作った資料」も、残念ながらAIなら一瞬です。
それなのに「もったいない」と言って古いやり方にしがみつくのは、暴落した株券を「昔は高かったんだ」と言い張って紙屑になるまで持ち続けるのと同じです。


――『AIで終わる人 AIで化ける人』より

かつて何年もかけて身につけた技術が、いまや一瞬で再現されてしまう。
それでも古いやり方にしがみつくのは、値下がりした株を「昔は高かった」と言い聞かせて持ち続けるのに似ています。
過去にいくら投資したかは、いったん脇に置く。
そのうえで、「いま、いちばん理にかなったやり方は何か」を選び直す身軽さが、これからは効いてきます。

とはいえ、何もかも捨てればいい、という話ではありません。
手放すべきは、あくまで「手段」です。
「こうありたい」という志や、「あの人となら一緒に仕事がしたい」と思ってもらえる信用まで投げ捨ててしまっては、本末転倒。
スキルが誰の手にも入る時代に最後まで残るのは、その人自身への信頼なのですから。

(本記事は、書籍『AIで終わる人 AIで化ける人』を一部抜粋、編集したものです。)

中平健太(なかひら・けんた)
株式会社ガラパゴス 代表取締役社長
早稲田大学理工学部卒業後、プロセス改善コンサルティングファームを経て2009年に創業。100を超えるスマホアプリ開発などを行うなかでデザイン産業の課題に直面し、いち早くAI技術の研究開発をスタート。2019年にAIを活用したクリエイティブ制作・改善サービス「AIR Design」をリリース。同サービスはのべ1000社・3000名以上に導入され、企業の業務フローと、個人の思考や働き方に根本的な変革をもたらしている。「ICCサミット KYOTO 2022 カタパルト X」優勝など起業・スタートアップ関連の賞を多数受賞。テレビやウェブメディアでも広く取り上げられ、1万人超への講演実績も持つ。現在は累計約24億円の資金調達を実施し、AI技術の社会実装を牽引している。