第一線から離れたあとも、彼女の世界は確率によって作られている。ポーカー以外の人間関係までゲーム理論の観点から見るようになったのだ。彼がこれをやれば、彼女はあれをするだろう――もし彼がこれをやるのが初めてでないのなら、といったぐあいに。

 その友人にとってつねに何よりも重要なのは、「最高」であることだった。いまはそれなりに落ち着いたが、以前は饒舌になったあるときに、10代のころコンピューターゲームのマインスイーパー(編集部注/一人用ロジックパズルゲーム)を取りつかれたようにやり込んだことを明かした。高校時代の一時期にはこのゲームで世界2位にランクされたほどだった。

 ところがそのせいで彼女は落ち込んだ。「“最高”を目指すのでないのなら、ゲームをやる意味がわからない」、よくそう言っていたものだ。

駆け引きが要求されるゲームは
人間に分があるはずだった

 ポーカーというゲームを成り立たせているのは、まずチップ、カード、ラウンド、手札。それにゲームのルール、組み合わせと確率、ほかのプレイヤーのメンタルモデル、そして支援者やスポンサー、賞金や借金も次第に意味をもってくる。

 これらがいかに複雑なものであるかは、コンピューターがポーカーで人間に勝てるまでにどれだけの時間がかかったかを、チェスのそれと比較すればはっきりとわかる。1997年にIBMの〈ディープ・ブルー(編集部注/チェス専用コンピューター)〉がチェスの世界チャンピオンのガルリ・カスパロフを破ったとき、それは何よりも計算能力の勝利だった。このときコンピューターは、未来に起こりうるすべての手を総当たりで予測し、成功の可能性が最大になる手を選ぶだけでよかった。

 ポーカーはそうはいかない。私の友人やネルがよく知っているように、確率そのものは最初の一歩にすぎない。優れたプレイヤーは、ほかのプレイヤーがどうやって優位に立とうとするかのメンタルモデルを作り、対戦相手が過去のトーナメントでとった戦略を――とりわけその弱点を――研究する。また、自分自身が相手から読まれないプレイヤーでありつづけるために、もしブラフをかけるという評判をとっていれば裏をかいて正攻法で勝負したりするし、その逆の場合もある。