AIは1秒に60億通りの手札を処理し
最適戦略を学習していった

 コンピューターがポーカーで人間を破るまでには〈ディープ・ブルー〉から20年の時間を要したし、それでも必ず勝てるわけではない。ただし無限にゲームが続くとしたら、最後にはコンピューターが必ず勝つだろう。

 2008年、ヘッズアップ・テキサス・ホールデム(1対1で戦うポーカーの一種)でプロを破ることのできるアルゴリズムが作られたが、その重要な革新は〈コンピューター・ポーカー・リサーチ・グループ〉というカナダの大学チームから生まれたものだった(注1)。

 このアルゴリズムは「後悔最小化戦略」なるものを使い、すべての可能な手札の確率を算出し、結果として配られうるハンド(編集部注/手札)とほかのプレイヤーのベットを勘案したうえで、最適な戦略からの乖離を最小化できるようなベットを決定するのだ。これはご想像のとおり、並大抵のわざではない。

 このアルゴリズムは2カ月間にわたり、自分自身を相手に数限りない対戦をくり返した。4000台のコンピューターを使い、1秒間に60億のハンドを処理し、1ハンドごとに知識をアップデートしながら。

 チームの主任研究者マイケル・ボウリングは、これは全人類がこれまでプレイしたポーカーのゲーム数を超えるものだと言っている。

最適戦略が見つかった結果
ポーカーは退屈なものとなった

 それから何年かたった2015年、私の友人は引退した。ポーカーは変わってしまった、そう彼女は言った。

 もうみんな確率のことを知りすぎてしまい、数字上の勝算だけでプレイしている。ポーカーのコミュニティも変化し、小さく親密なものから大きく人間味のないものになった。古参のプレイヤーたちはいまでは、トーナメントに出るのは時給いくらで稼ぐのと同じだと見ている、と。私がこれまで会ったさまざまなプロのなかで、ポーカープレイヤー以上に期待値で物を考える人たちはいない――つまり、将来の可能性とそれぞれに伴う確率をマッピングし、ある結果から得られる利益にそれが起こる確率を掛け合わせて意思決定を行うということだ。