リーダーシップ育成だけでなく、チームメンバーの意思決定力を向上させるうえでも、事例を設定して、擬似的に意思決定を行なうシミュレーションは有効です。

 私が行なう研修においても、「図上演習による脳トレ・仮想体験」と呼ぶシミュレーションは、定番のメニューの1つです。

「図上演習」などと言うと、準備や手順がとても複雑で、手間がかかるものと感じられるかもしれません。実際、軍事組織で行なう本格的なシミュレーション=図上演習は、極めて複雑で、奥の深いものです。

 例えば、日米が共同の軍事演習で実際に船や飛行機などを動かす前に、予備的に図上演習を行なうような場合が、これにあたります。

 他にも、国や自治体が災害時の対応を訓練する図上演習など、長時間をかけて、大人数で行なう本格的なシミュレーションもあります。

 ただ、皆さんが日常的に意思決定のトレーニングとして行なうシミュレーションは、もっとシンプルなもので十分です。むしろ、日頃から気軽に実施できてこそ、トレーニングとして効果が上がります。

 やり方としては、まず、

「業務のなかで発生しそうな問題解決の場面」

「過去に自社や業界内で起きた問題事例」

 といったケースを想定します。

 そして、

「自分なら、どのように意思決定をするか」を、

「目的の明確化」→「状況の把握」→「行動方針の評価」

 という手順で、

「適合性」「可能性」「受容性」

 という3つのポイントの枠で考えてみるといいでしょう。

 チームメンバー1人ひとりがこうした思考のクセをつけるだけでも、効果はあるはずです。

座学では身につかない
効果的なトレーニング方法

 そのうえで、チームとしてしっかりと意思決定力向上トレーニングを行なうのなら、次のようなポイントを押さえた練習の機会を用意するといいでしょう。

【架空の空間での意思決定と行動トレーニング】

*模擬された空間でイベントを発生(課題となるケースの設定)

*プレイヤーはイベントに対し判断・意思決定・決断(自分ならどう考えるか?)

*判断・意思決定・決断結果に基づき、活動を実行(そのうえで、自分ならどう行動するか?)

*ゲーム終了後、判断・行動の良し悪しをフィードバック(メンバー同士での相互レビュー)

 要は、シミュレーションを各自で行なうだけでなく、チーム内で発表し、レビューし合う場を設けることで、より効果的なトレーニングが可能になる、ということです。

 大脳生理学から見ると、シミュレーションには座学にはない特別な効果が期待できます。

 実際に頭を働かすというアウトプットを伴うために、現実の問題解決において使われる脳の部位が強く刺激されます。

『米国海軍大学元教官が教える自律型チームのつくり方』書影米国海軍大学元教官が教える自律型チームのつくり方』(浅野 潔、フォレスト出版)

 シミュレーションで疑似体験を繰り返すことは、脳内にある特定の神経回路を太く形成し、いざ実戦という場面で迷わず動ける力を養ってくれるのです。

 また、仮想空間での出来事とはいえ、現実的なケースを想定することは適度な緊張感を伴いますし、また模擬とはいえ、問題解決にあたることは脳の報酬系を刺激し、「おもしろさ」「やりがい」に、そして学習者の深いコミットメントにもつながるでしょう。

 このように、シミュレーションは脳の仕組みから見ても効果的な手法です。あまり細かい形式にとらわれず、どんどん人材育成に取り入れていきましょう。

 自ら意思決定できる力を持ったチームメンバーを育てることで、「任せる」マネジメントが実現に近づきます。