「ここで敬遠か」と思って、頭がカーッときて、それで「ヨシ、当てるぞ」と言って、アイツは(オレのコントールを)信用していないから逃げようとしていたんだけど、あのとき投げた1球だけはコントロールよく当てられたわ(笑)。

 アイツは一塁に行って、痛そうに脇腹をさすりながら、「ひどい、ひどい」って言って怒ってたよ。

平松 そりゃ、ひどいし、怒るでしょうよ(笑)。オレは彼に同情するよ。

江本 そのくらい。でも、普通は当てないよな。

平松 そりゃ、硬式のボールって石みたいに硬いから、故意に当てたらケガしちゃうよね。

江本 オレも打席で足に当てられたことがある。相手は巨人・阪神戦で角(三男、現・盈男)だった。そのとき初めて当てられたときに痛いのがわかった(笑)。目から火が出たみたいだった。

平松 角はコントロール悪かったからな。

平松 王さんには、たしかに打たれた思い出が強くあるけど、昭和45年(1970年)はね、対巨人戦にかぎって言えば、33イニング連続無失点だったの。その間は王さんに打たれていないんだから。

江本 王さんには、だいたい8回以降の後半にやられるからね。前半抑えても後半は打たれるもんね。あの人はなんだったんだろうね。バットの出方が、ほかのバッターとは違っていたんだろうね。

王が打ったホームラン868本
そのうち25本は平松の球だった

平松 体の近くまでボールを引きつけて、「ボールか、ストライクか」っていう判断をして、ストライクって判断したらスイングする。あの天才的な能力を持ったバッターは王さん以降は見てないね。

 よく、「ボールを前で叩け」って指導する人がいるでしょう?ボールを前で叩いていたらフォークや変化球は打てない。王さんはもっと体の近くまで呼び込んでからバットのしんでとらえていた。この技術は誰にも真似できないよ。

江本 南海時代、ノムさんってデータが好きじゃない?「尾張メモ」(日本のプロ野球において、スコアラー第1号といわれた尾張久次氏のデータ。野村克也は重宝した)。それらのデータと照らし合わせて王さんと勝負しようとしたんだけど、どの高さ、コースともにまんべんなく打っている。「これはアカン。抑えられん」って思ったんだけど、あとは、タイミングを狂わせるか、ホームラン打たれて1点取られるよりも一塁に歩いてもらったほうがいいって考えるか――だったよね。

平松 オレも王さん対策はやった。(ストライク)3球のうち1球はコースに投げることができるのよ。でも、3球ともコースに投げ分けるのはすごく難しい。そこで考えたのが巨人のチーム方針を逆手に取った方法だった。

 ONにかぎらず、巨人は3ボール0ストライクのカウントになったら必ず1球は「待て」のサインが出た。だから、次は必ずど真ん中にストライクを投げる。すると残り2球はコースに投げられることができたので、それで(王さんを)打ち取ったということは実際にあった。それしかなかったもん。満塁で(王さんを迎えたときに)敬遠もやむなしって考えざるをえないバッターだったんだから。

江本 オレはそういう考えはなくて、ある意味、もうヤケクソで、「打ってみいや!」で勝負に行っていた(笑)。

平松 王さんが868本ホームランを打っているうちの25本は打たれたんだけど、いま思うと自慢だな。

江本 (25本打たれたのは)勝負しているからだよ。

平松 いいこと言ってくれる!じつは王さんご本人にも「王さんには、よく打たれました」って話をしたことがあるんだ。そのとき、王さんは「いやあ、平松はよく勝負してくれたよ」って言ってくれてね。でも、(王さんとの勝負は)逃げられないじゃない?

江本 自分に自信がないと勝負できないからね。オレは自分の球に自信がなかったから。手からボールが離れたら人格がなくなっちゃうんだから(笑)。

平松 そりゃないだろう(爆笑)……しかし、いい性格してるよ。エモやんはな。