「人生を旅」と考えれば
遠回りも思い出に変わる
失敗して、その目標をあきらめる決断をしたとき、あなたの心にはどんな「景色」が浮かびますか?行き止まりの壁、固く閉ざされた鉄の扉、あるいは出口の見えない真っ暗なトンネル……。そんなイメージが浮かんでくると、心は「もう終わりだ」「これ以上先はない」と固まってしまい、体まで動かなくなってしまいますよね。
でも、もしそんな状況で、心の中に1枚の「開かれたドア」が浮かんだとしたらどうでしょうか。
心理学では、こうした比喩のことを「メタファー」と呼びます。メタファーは単なる言葉遊びではありません。私たちの脳は、目に見えない複雑な状況を、何か別の身近なものにたとえて理解しようとする性質があります。
たとえば「人生は旅だ」と考えれば、遠回りも「思い出」になりますが、「人生は戦いだ」と考えれば、少しの停滞も「敗北」に感じられてしまいます。つまり、どんなイメージを持つかで、世界の見方や行動の仕方がガラリと変わってしまうのです。
私たちが最近行った実験では、この「イメージの力」が、目標を切り替えるときにどれほどの効果があるかを詳しく調べました。
実験では、参加者に「ある目標に失敗してガッカリしている自分」を想像してもらいました。その直後、参加者をいくつかのグループに分け、異なるイラストを見てもらいます。あるグループには「固く閉ざされたドア」の画像を、そして別のグループには「爽やかな光が差し込み、向こう側に広い世界が広がっている「開かれたドア」の画像を見てもらいました。
「開かれたドア」を想像するだけで
前向きな気持ちが湧いてくる
『「がんばれない」心で何が起きているか』(外山美樹、筑摩書房)
すると、どうなったと思いますか?「開かれたドア」のイメージを見た参加者たちは、閉ざされたドアを見た人たちに比べて、「あ、別の方法を試してみようかな」「新しいことに挑戦してみようかな」と、驚くほど前向きなアイデアを次々と出し始めたのです。実際に、次のアクションへ具体的に踏み出そうとする意欲もぐんと高まりました。
脳が「開かれたドア」というイメージから、「ここは終わりではなく、新しい世界への入り口なんだ」「別のチャンスがまだあるんだ」というポジティブな指令を読み取ったのでしょう。
「閉ざされた扉」のイメージがあなたに「止まれ」と命じるなら、「開かれたドア」はあなたの背中をやさしく、そっと押してくれます。
これは、脳の仕組みをうまく味方につけた、きわめて実践的なセルフケアです。もし、うまくいかないことがあって「終わった……」と立ち止まりそうになったら、一度目を閉じて、心の中に一枚の「開かれたドア」を浮かべてみてください。そのドアの向こう側には、今のあなたにはまだ見えていない、新しい物語の続きが必ず待っています。







