仕事を引退したら、旅行に行きたい。好きなことをしたい。そのために、お金を貯めている。そういう人は多いかもしれない。しかし、引退後の生活を楽しむためには、もっと大切なものがある。元オックスフォード大の医学研究者で、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏が伝える、「将来後悔しないために今すぐできること」を紹介する。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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「引退後に後悔する人」の特徴
あなたには、仕事を引退したらやりたいことはあるだろうか?
旅行へ行く。
家族との時間を大切にする。
好きなことに挑戦する。
そんな答えを思い浮かべ、将来にワクワクしている人も多いだろう。
ただ、そういった夢を叶えるためには、大前提がある。
「脳が健康である」ことだ。
厚生労働省の報告などによれば、2025年の認知症発症数は700万人。
高齢者の5人に1人に相当する。
どれだけ時間やお金があっても、認知症になってしまえば、それまで当たり前だった日常を楽しむことさえ難しくなる。
元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家・下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で、認知症は決して高齢になって突然始まる病気ではないと説明している。
従来のアルツハイマー病も、明確な症状が発症する20年近く前から進行が始まっている場合があります。
症状が現れるのは早くても40代以降であることが多いのですが、その何年も前から、気づかぬうちに魔の手に捕まっているかもしれないのです。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
記憶力や認知機能に違和感が出始めてから不安を抱いても、遅い。
脳の変化は何十年も前から始まっていた可能性がある。
「脳の健康を考えてこなかったこと」
これが、引退後に思い描いていた生活ができず、後悔してしまう人の特徴なのだ。
脳の健康を左右する「インスリン抵抗性」とは?
「認知症になるかどうかなんて、運のようなもの」
「遺伝で決まっているのだから、対策しようがない」
そう思う人もいるかもしれない。
しかし下村氏は「日々の生活習慣が、認知症のリスクを高めている」と警鐘を鳴らしている。
とくに気をつけたいのが、「糖」の摂り方である。
甘いものを食べすぎる。
糖質を過剰に摂取する。
それが毎日続けば、脳には少しずつ負担が積み重なっていく可能性があるという。
その理由を、下村氏は次のように説明している。
間食や「ながら食べ」をしてしまうと、1日中インスリンが出っぱなしの状態になってしまいます。当然、肝臓や筋肉などの末梢臓器は、持続的に大量のインスリンにさらされることになります。
こうなると、肝臓や筋肉でインスリン抵抗性が進行してしまいます。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
インスリンが出続けると、やがて体はインスリンに反応しづらくなる。
これが「インスリン抵抗性」だ。
インスリンというと、「血糖値を下げるホルモン」というイメージが強いが、実は脳にとっても重要な役割を果たしている。
脳の中でインスリンは、「学習」や「記憶」を司る脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、脳神経細胞そのものを保護したりする、極めて重要な働きをしていることがわかってきたのです。
さらには、脳内のインスリンは記憶や学習をスムーズにすすめるだけでなく、アミロイドβなどによる攻撃から脳神経細胞を守る役割も果たしています。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
つまり、インスリンが力を十分に発揮できていれば、アルツハイマー病は発症しにくい、あるいは進行しにくいということだ。
だからこそ、糖を摂り続けてインスリンが働きにくい状態になることは、脳にとっても見過ごせない問題なのである。
1日でも早く対策を始めることに意味がある
糖の摂り方に気をつけることが、認知症の発症や悪化を食い止める。
脳に違和感を抱き始めてからでも、遅くはない。
実践することで、その進行を遅くすることはできる。
ただ、対策を始めるなら早いにこしたことはない。
40代でも。
50代でも。
60代でも。
毎日の食事は、未来の脳への投資になる。
甘いものを食べる回数を減らす。
その意識が、10年後、20年後の脳を守ることにつながる。
「もっと早く、脳の健康を考えて生活しておけばよかった」
引退後に後悔しないためにも、脳を守る習慣は、今日から始めたい。
(本稿は、下村健寿著『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容をもとに作成した記事です)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








