こだわりを持つことはいいことだと言われる。だが、執着が強すぎると何かと問題が起こる。
執着を捨てられる人と、捨てられない人。その差は一体どこにあるのか? 
そのヒントをくれるのが、ニューヨーク・タイムズ「The 10 Best Books of 2025」に選出、「ネロ・ブック・アワード」金賞受賞、角幡唯介氏が「漂流者だけが知る、あらゆる人間性がはぎとられた先にある生き物としての生。それに圧倒される」と評した世界的ベストセラー『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著、村井章子訳)だ。「執着を捨てられない人の共通点」とは? ライター照宮氏がレポートする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

見た目とは裏腹に執着がありすぎる人Photo: Adobe Stock

時間をかけたものほど手放しにくい理由

 長く続けてきた仕事や、時間をかけて築いた関係は、今の自分に合わなくなっても簡単には手放せない。

 ここまで頑張ったのだから、もう少し続けたほうがいい。途中で離れたら、それまでに費やした時間や労力まで無駄になる。そんな思いが強くなるほど、今どうしたいかよりも、「ここまで続けてきたのだから」という気持ちを優先してしまう。

 もちろん、簡単に投げ出さず続けることには意味がある。
 続けたからこそ得られるものもあるから、区切りをつける判断は簡単ではない。

 人はどんなときに、過去の努力に引っぱられず、今どうするかを決められるのだろう。

執着がありすぎる人の共通点

「漂流者だけが知る、あらゆる人間性がはぎとられた先にある生き物としての生。それに圧倒される」と極地旅行家の角幡唯介氏が評した『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著/村井章子訳)には、何年もの苦労を重ねてつくったものを手放すシーンがある。

船を捨てる決断は一瞬だった。視線を交わしただけである。(中略)
何年もの苦労の結晶、わが子のようにかわいがっていた船。その子が傾いて消えていく。

――『極限の漂流118日間』より

 この船は、ただの移動手段ではなかった。
 家を売り、何年もの時間をかけて完成させた、ふたりの夢の形だった。
 それでも、沈み始めた船を前に、ふたりはそこに費やしてきた時間を理由に判断を遅らせなかった。

 この場面から見えてくるのは、大切にしてきた思いまで否定することなく、それでも目の前の状況に合わせて判断を変えることの難しさである。

 現代に生きる人たちはこれとは逆のことをしがちだ。つまり、いつまでたっても大切なものを手放せない。彼らに共通するのは無用な「執着(こだわり)」だ。上記のシーンは普段の生活態度が極限状況に出るという格好の教えなのかもしれない。

手放したものまで無駄にしなくていい

 続けてきた時間の価値は、最後まで持ち続けたかどうかだけで決まるものではない。
 途中で手放しても、その経験の中で考えたことや身につけたことは、その後の自分の中にも確実に残っていく。

 本書は、最後まで持ち続けることだけを正しさにしない。
 ここまで時間をかけたからと、今の自分に合わなくなったものから離れられずにいる人に、過去の努力とこれからの判断を分けて考えるきっかけをくれる。