多くの日本企業が当然のものとして続けてきた3年間の中期経営計画。しかし、その前提がいま静かに崩れ始めているという。『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)の著者であり、IGPIシンガポール代表取締役として日本・東南アジア・インドの経営に伴走してきた坂田幸樹氏に、中計を手放した企業に、今何が起きているのかについて聞いた。

中期経営計画をやめた会社は、その後どうなったのか?Photo: Adobe Stock

実行しているのか、更新しているのか

 3年間の中期経営計画(中計)をつくっている会社では、いま奇妙なことが起きています。

 変化のスピードが速い現代においては、中計を実行している最中に、市場環境や顧客ニーズなどの前提が大きく変わってしまいます。そして、その変化した前提に合わせて中計を更新する作業は、当然ながら発生します。

 すると、中計を実行しているのか、それとも更新しているだけなのか、分からない状態になってしまう。

 私が経営の現場で何度も目にしてきた光景です。

 戦略を一度決めたら動かさない静的なものとして捉えると、実行している間に戦略と現実との間には必ずズレが生じます。

 そして、そのズレを埋めるために計画の見直しに追われ、本来取り組むべき課題への対応が後手に回ってしまうのです。

 中計そのものが悪いのではありません。問題は、変化を前提としない戦略の運営が、現在の環境に合わなくなってきていることです。

中計を手放した会社に起きたこと

 では、思い切って中計という形式を手放した会社はどうなるのか。

 私が支援してきたある企業は、3年間の計画を精緻につくり込むことに費やしていた時間を、方向性の共有と資源配分の意思決定に振り向けました

 経営が示すのは、「どこへ向かうのか」という方向性です。具体的な打ち手は現場が組み立て、状況に応じて変えていく。

 結果として起きたのは、意思決定のスピードの変化でした。前提が変わるたびに計画をつくり直す必要がない。最初から、前提が変わることを織り込んだ形で動いているからです。

 これは計画を捨てたということではありません。

 計画を静的な成果物ではなく、動的なプロセスとして捉え直したということです。

経営の仕事は「決めて落とす」ことではない

 この転換で最も変わるのは、経営の役割です。

 経営が戦略をつくって現場に落とす。この構図が成り立つのは、ゴールも現状も大きく変わらない場合です。どちらも動く時代では、上から降りてきた計画は、現場で実行される頃には前提が変わっていることも少なくありません。

 だから経営は、方向性を示すことと資源配分に集中する。そして現場が、それをもとに具体的な打ち手を動的につくり変えていく。

 拙著『戦略のデザイン』Perspective(視点)・Value(価値)・System(仕組み)という3つの軸を示したのは、この共創を成り立たせるためです。仕組みさえ設計できていれば、現場は自律的に価値を生み出し、戦略を育て続けられるようになります。

それでも中計が必要な業界はある

 誤解のないように申し添えておくと、従来型の戦略立案が有効な業界も、いまなお存在します。

 市場環境の変化が比較的小さく、前提が数年単位で維持される事業であれば、精緻な計画には十分な意味があります。

 問題は、自社がどちらなのかを検証しないまま、慣習として中計をつくり続けている場合です。

 一度、問い直してみてください。その計画は、3年後にも有効な前提の上に成り立っているでしょうか?

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。