「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。約10か月にわたってお送りしてきた本連載も、今回で最終回。最後は、坂田氏がこれまで論じてきた「戦略のデザイン」という考え方を、一つのメッセージに集約する。

戦略はもう「立てる」ものではない。では、どうするのか?Photo: Adobe Stock

戦略の前提は崩れた

 かつて戦略とは、ゴールを定め、現状を分析し、その差分を埋めるものでした。多くの方が学んできたのは、この考え方だと思います。

 しかし、いまはゴールそのものを定めることが難しい。現状も日々変化していきます。戦略の前提となる二つの点が動いている以上、その差分を埋めるという発想だけでは立ち行かなくなっています。

 戦略が機能しなくなったのではありません。戦略という言葉が意味するものが、変わったのです。

立てるのではなく、デザインする

 これからの戦略は、「一度完成させてから実行するもの」ではありません。「実行しながら動的に磨き続けるもの」として捉え直すことが重要です。

 計画を固めてから動くのではなく、動きながら形を変えていく

 経営が方向性と資源配分を示し、現場がそれをもとに具体を組み立て、状況に応じて変え続ける。経営と現場が共に戦略をつくり続ける。それが、これからの戦略です。

 私はこれを「戦略のデザイン」と呼んでいます。従来の戦略立案との違いは、精度でも粒度でもありません。戦略を静的なものとして捉えるか、動的なものとして捉えるか。その違いに尽きます。

やってみなければ分からない

 なぜ、動きながらつくるしかないのか。

 その理由は単純です。やってみなければ分からない時代になったからです。

 生成AIがよい例でしょう。世に出るまで、どのようなニーズがあるのか誰にも分かりませんでした。

 そして登場した途端、開発者すら想定していなかった使い方が次々と生まれ、産業の姿そのものを変えていきました。

 事前に正解を見つけることはできません。まず動き、その中で実際のニーズや課題を掴んでいく。そして、その学びを次の戦略へ反映していく。そのプロセス自体を設計することが、いまの経営に求められています

 拙著『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』では、そのための思考の軸としてPerspective(視点)・Value(価値)・System(仕組み)の3つを示しました。

 方向性を定め、目の前の課題を解決し、小さく価値を生み出し、それを仕組みに変え、さらに大きな価値へと広げていく。この循環を回し続けられる組織が、変化の時代に強い組織です。

最後に

 もちろん、従来型の戦略立案が意味を失ったと言いたいわけではありません。市場環境の変化が比較的小さい業界では、精緻な計画を立てることが競争力につながる場面もあります。

 ただ、多くの業界では、変化のスピードがこれまでになく速くなっています。その現実の中にいるのであれば、戦略は「立てる」ものではなく、「デザインする」ものになります。

 戦略を動的なものとして捉え直す

 変化を前提に考え、動き、学び続ける

 その営みそのものが、この連載を通じて最もお伝えしたかった「戦略のデザイン」という考え方です。

 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。