世界広しといえども、起業家の東園絵氏が運営する「ウナギトラベル」の旅行サービスほど「奇想天外」なものはおそらくないだろう。
ツアーを募集し、料金を徴収し、複数の参加者を連れて、国内の名所を回る。こう聞くと、何の変哲もない旅行サービスのように思える。ただし、1点だけ大きく異なることがある。ツアーに参加するのは人ではなく、なんと!「ぬいぐるみ」なのだ。
ツアーの段取りはこうだ。まず希望のツアーに申し込み、自分のお気に入りのぬいぐるみを宅急便でウナギトラベルの事務局に送る。集まったぬいぐるみ(参加者)は東氏が持ってツアーコースを回る。参加者が名所を観光したり、カフェで休憩したりしている様子は、逐一スマートフォンで撮影し、フェイスブックのファンページにリアルタイムでアップしていく。
ぬいぐるみの持ち主はタイムラインに次々と掲載される写真と東氏のコメントを見て、さも自分が旅行に参加しているような“疑似トラベル体験”を味わえるわけだ。実際にウナギトラベルのWebサイトでは、「東京観光」(3675円)、横浜観光(4200円)などのツアーを随時募集している。
率直に、自分の所有するぬいぐるみをツアーに参加させたいという需要が果たしてあるのか? と思う人もいるだろう。だが、世の中には、持病を抱えていたり、多忙だったり、行きたい場所が遠かったりなど、旅行がしたくてもできない事情を持つ人がたくさんいる。また、純粋に「自分の可愛いぬいぐるみに旅をさせたら面白いのでは」と発想する人もいるかもしれない。ウナギトラベルは、そうしたニッチな潜在ニーズを上手く掬い取っているのだ。
NHKの番組で認知度が全国区に
そもそもこの前代未聞のツアーが誕生したのは、東氏自身がウナギが大好物だったことに端を発する。多摩川や江戸川で釣って食べるほどだったが、数年くらい前からパッタリと釣れなくなった。ウナギへの想いは日々募るばかり。その気持ちが高じたせいか、何となくウナギのぬいぐるみを作ってしまい、せっかくだからということで、自分の分身としてブログなどに登場させ、自身の日々の行動を綴り始めた。
すると、友人、知人が面白がり、そのうちの1人がウナギのぬいぐるみをニューヨークへの出張に連れて行き、現地で名所などを背景に撮ったぬいぐるみの写真を送ってくれたのだ。