年齢に関係なく
「一番下の新人」に戻れるか

 異動先で腐る人と伸びる人の分かれ目は、過去の成功体験をいったん忘れ、新しい部署では自分が一番の新人だと考えて初心に帰れるかどうかにあります。

 これはアンラーニング(学習棄却)と呼ばれ、ミドル以上の働き手にこそ求められる重要な行動様式であり、リスキリングとも地続きの概念です。学び直しというと、新しい知識を増やすことばかりを考えがちですが、これまで培ってきたものを生かしつつ、環境が変わって通用しなくなったやり方や価値観を手放せるかどうかが重要なのです。

 40代ともなれば、誰しも自分なりの「勝ちパターン」を持っており、それ自体は立派な財産です。ただ、部署が変われば、扱う商材も、顧客も、意思決定の仕方も、人間関係も、仕事の速度も変わります。とくに大企業になるほど部署ごとの商習慣は大きく異なります。財産であるはずの自分の経験が、着任した途端に足かせに変わってしまうのはそのためです。

 異動先では、全員が一斉に入れ替わるわけではありません。5人のチームなら、1人が抜けて自分が入り、残りの4人はすでに出来上がった関係性ややり方、インフォーマル・ネットワーク(担当や部門を越えてつくっている個人的関係のネットワーク)を共有しています。そのうえ現場の実務を最も知らないのが、リーダーとして来たあなたという状況も珍しくはないでしょう。

 そして、どの部署にも言語化されていない「暗黙知」は必ずあります。組織図には書かれない、誰に聞けば仕事が早く進むのか、役職以上の影響力を持っているのは誰なのか、一見非効率に見える手順がなぜ残っているのかといった知識です。

 異動先で失敗する40代はここでつまずきます。ろくにメンバーにヒアリングもせず、現場の業務やこれまでの経緯、人間関係の機微を理解しないまま改革を断行してしまう。経験という鎧をまとい、何かにつけ前の部署と比較し、年下のメンバーには仕事を教えてやるという態度で接し、長年チームを支えてきた社外パートナーをぞんざいに扱うのです。

 信頼関係が築けていない段階での改革は、既存のメンバーには高圧的な指導や「マウントを取る行為」にしか映りません。自分たちのやり方を否定されたと感じれば人は心を閉ざします。

 そうなれば、判断に本当に必要な本音や暗黙知は上司にはもたらされず、形式的な報告しか上がってこなくなる。業務理解が浅いまま独断専行を続けた管理職は判断を誤り、重大なミスを犯し、やがて上層部から今回の異動は失敗だったと見なされ、本人のキャリアも大きく傷つくのです。