人は何のためなら頑張れる?→「生きる力」が湧く〈ひと言〉に胸が熱くなる〈風、薫る第94回〉

中村倫也(柳生役)の正体

 長太郎の声が聞こえると、アサの意識がすこしはっきりしてきた。愛する息子の声に、涙を流すアサ。悲しげなピアノの劇伴が流れ、りんは父のことを思い出している。

 アサがりんの手を握る。

「アサさん、気をしっかりもって。家に戻りましょう」

 りんも強く握り返す。りんは父と触れ合うことができなかった。いまは、手に触れ、そばで声がかけられる。たったひと言でも、人は生きる力を取り戻せる。その場面に胸が熱くなった。

 りんや直美、黒川たちの努力が報われ、1カ月後、アサは回復に向かっていた。他の患者たちも元気になって避病院から出ていく。

 すっかり弱っていた柳生(中村倫也)も、ぱりっとスーツを着て見違えたようだ。ちょっと気取った素振りで直美に「この辺のものじゃないだろ」と声をかける。

「私は内務省衛生局の者だ。現地調査に来ていて発症した」
「このままいけば死亡率を一割に抑えられたことになる」
「目覚ましい事例だったと上には報告しておく」

 中村倫也の特有のいい声が、生かされるセリフである。

 直美が「東京で派出看護をやっている」と言うと、「どうりで。俺は運が良かった」とひとりで納得する柳生。看護の手つきがただ者じゃないと思ったのだろう。

「東京で派出看護をやっている」と言ったときの直美の目つきはただ者じゃなかった。衛生局の者と聞いて、ギラン!となった感じがした。自分の仕事の今後に役立ちそうと思ったのではないだろうか。

 柳生も一筋縄ではいかなさそうだ。

「ただ、患者を怒鳴るのはやめた方がいい」とチクリ。

 やっぱり、第93回の「院内での差別を私たちは決して認めません」はキツすぎる言い方だと思ったのは筆者だけではなかった。

 柳生はどうやらこれで退場ではなく、東京で直美と関わっていきそうだ。でも、労うならりんもねぎらってあげてほしかった気もする。

 さて。子どものために頑張って病気を治そうとする母親を演じた美山加恋。朝ドラ『純情きらり』(06年)では宮﨑あおい演じる主人公の子ども時代を演じていた(当時9歳)。ヒロインの子役が20年後にはお母さん役。こういう俳優の成長を見られるのも朝ドラの楽しみだ。

 美山は『虎に翼』(24年)では主人公(伊藤沙莉)に離婚訴訟を頼んだものの、自分に味方してもらえないと逆恨みしてカミソリに刃を突きつけるというハードな役を演じていた。

人は何のためなら頑張れる?→「生きる力」が湧く〈ひと言〉に胸が熱くなる〈風、薫る第94回〉