病や死とかかわる「知恵」

 Yさんは、以前から「無為自然」を大切にする人で、病においても、コントロールしようとすることがかえって事態を悪くすることをよく知っていて、起きている現実やプロセスを信頼し、その流れに沿っていこうとしていました。

 そして亡くなる際のプロセスに付き添っていたご家族や筆者にとり、その場で必要とされたことは、瞬間瞬間に意識を集中することだけ。考えることなく、自然に動くことができ、すべてが完璧に展開していく感覚を体験しました。それは、まさにケイティが言っていることと同じでした。

 死に向かう人もその身近にいる人も、死を意識すると、「お父さんは自分の考えを押しつける」とか、「〜があれば自分は幸せになる」といった日常的なストーリーが成立しなくなり、時間を超えた感覚になります。何が大切で本質的なことかが見えてきて、死を目前に和解が起きることもあります。そして死そのものも、ストーリーにとらわれずに直接的に体験すれば、決して残念で悲しいだけのことではありません。

 Yさんの例がそうであったように、残された者たちにとって、平和で愛を感じる体験でもあるのです。そしてワークは、ストーリーを超えたところにある平和や愛、自由を思い出す助けになってくれます。

 人の誕生も死も、人生の中でもっとも重要な体験といってよいでしょう。そうした体験は伝統的な社会においては家の中で起き、家族やコミュニティがどのように関わったらいいかということが、人としての大切な知恵ということで継承されてきました。私たちは新たな形で、こうした知恵を活かしていくことができるのではないでしょうか。


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