――両社の差が表れるまで、どれほど時間がかかるのでしょうか。

長野氏 時間軸は、AIアプリケーションが爆発的に普及する時期から逆算するべきです。OpenAIが2023年3月にChatGPTで使われるモデルのAPIを公開したことで、スタートアップは自社で巨大モデルを開発しなくても、その上にサービスを作れるようになりました。

 その代表例がAIコーディングサービスの「Cursor」です。基盤モデルをAPIで利用しながら、短期間で急成長しました。今後、Cursorのような成功例がコーディング以外の領域から次々に生まれれば、どのLLMの利用量が増えているかが明確になります。早ければ1~2年、遅くとも2~3年で、プラットフォーム側への収益還流が目に見える形になる可能性があります。

 個人投資家が追うべきなのは、提携先の基盤モデルが有力アプリにどれだけ採用されているか、API利用が継続収益に結び付いているか、そして自社がその利益を株主価値として取り込める資本関係にあるかです。

ソフトバンクの最大のリスク
別視点ではNTT戦略が正解に?

――ソフトバンクグループの戦略にも弱点はありますか。

長野氏 もちろんあります。最大のリスクは、OpenAIが基盤モデルの競争で敗れるシナリオです。AnthropicやGoogleに加え、中国勢のアリババやDeepSeekも存在感を増しています。

 かつて米国発のFacebookがSNSの覇者に見えた後、誰も中国発のTikTokが台頭するとは考えませんでした。AI領域でも現在の序列が固定される保証はありません。

 特に中国勢は、オープンソース方式を採用して多くの開発者を呼び込む戦略があります。採用が広がれば、アプリ側がそのモデルから離れにくくなる可能性がある。ソフトバンクグループはOpenAIが勝った場合の上昇余地が大きい半面、巨額投資が1社への集中リスクにもなります。投資家は期待リターンの大きさと同時に、提携先の競争力、資金負担、投資回収までの時間も点検しなければなりません。

――それでも、企業価値の成長性ではソフトバンクグループが優位という見方ですか。

長野氏 個別企業の企業価値という物差しなら、ソフトバンクグループのほうが上振れ余地は大きいと考えます。ただし、日本全体にとってどちらの戦略が望ましいかは別問題です。

 日本はデジタル赤字(海外のデジタルサービスへの支払い超過)という問題を抱えています。今後、あらゆる国内サービスが海外製LLMを利用するようになれば、海外事業者への利用料の支払いはさらに膨らみかねません。ソフトバンクグループ1社にとって合理的な選択が、日本全体の最適解と一致するとは限らないのです。

 その意味で、国産の基盤モデルと国内の計算資源を守るNTTの戦略には、経済安全保障上の価値があります。政策支援が強まり、機密性を重視する企業や行政で国産AIを採用する機運が高まれば、NTTの成長シナリオは上振れします。

 両社におけるAI戦略を比較する際は、(1)狙う市場の大きさ、(2)プラットフォーム性と継続収益、(3)必要投資と失敗時の損失、(4)政策や経済安全保障による追い風、の4点を見るべきです。「巨額投資だから成長する」「国産だから安心」と一つの物差しで判断せず、どの条件が実現したときに企業価値が伸びるのかを分解する。それがAI企業の成長性を見極める基本になります。