「臭」は《犬》と《自》からなる会意字(編集部注/2つ以上の漢字を組み合わせて、もとの文字とは別の新しい意味を表す漢字)です。

 イヌは嗅覚が非常に発達している動物で、そのイヌと「自」=鼻を組みあわせることで、この字は「におい」、あるいは「においをかぐ」という意味を表しました。

「嗅」の「つくり」が
《臭》ではない理由

 いまの日本語では「臭」を「くさい」と読み、「悪臭」や「加齢臭」「消臭剤」などもっぱら「好ましくないにおい」という意味で使います。

 しかし「臭」はもともと悪臭だけでなく、「芳香」をも意味する漢字でした。『易経』という古い文献の中には、蘭の花のかぐわしい香りを「臭」という漢字で表現している例があります。

 この「臭」を構成要素とする「嗅」という漢字が、2008(平成20)年に「常用漢字表」改定を審議する委員会で議論になりました。

「嗅」は五感の1つである「嗅覚」ということばによく使われるので、あらたに常用漢字表に入れる候補となり、そのことについては委員会でも異論はありませんでした。

 問題は「嗅」という漢字の右側が、《自》と《犬》からなる「臭」の旧字体の形になっていたことでした。そしてこの字を新しく常用漢字とするのならば、右半分を「臭」と同じ形にあわせるべきだという意見が、何人かの国語教育関係者から述べられました。

 中学校や高校の国語の授業で中高生たちは「臭」という漢字を《自》+《大》の「臭」という形で学ぶのに、今回あらたに常用漢字表に入る「嗅」の右半分が《自》と《犬》になっていれば、《口》ヘンがついているかどうかで形がちがうことになり、教える側も学ぶ側も混乱してしまう、だから「嗅」を常用漢字表に入れるのなら、右側を「臭」にするべきである、という議論でした。

「嗅」の字形を変えられない
デジタル時代の事情

 その意見は、ちょっと聞いたところではかなり説得的であると思えます。

 そもそもこれまで頻繁に使っていた「嗅」の右半分が実は「臭」ではなく、下が《犬》になっていることに気がついていなかったという方も、読者のなかにたくさんおられるかもしれません。