地面を嗅ぐ犬写真はイメージです Photo:PIXTA

「臭」と「嗅」。どちらも「におい」に関係する漢字だが、よく見ると、「臭」の下が「大」なのに対して、「嗅」の右側は「犬」になっている。なぜ、似た意味を持つ漢字なのに、字形はそろっていないのか。実は「臭」も、もともとは「自(鼻)」と「犬」を組み合わせた漢字だった。戦後の漢字改革で「犬」の部分が「大」に簡略化された一方、「嗅」はなぜ「犬」のまま残ったのか。そこには、漢字の形をめぐる戦後の事情だけでなく、パソコンやスマートフォンなどデジタル機器の普及も深く関係していた。※本稿は、日本漢字能力検定協会編『漢字の大疑問 いつも使っているのに意外と知らない言葉の世界』(マガジンハウス)の阿辻哲次執筆部分を抜粋・編集したものです。

中国人は「臭」という
字を使っていない

図2:「臭」の字形一覧二玄社編集部編(2007)『大書源』二玄社 拡大画像表示

「自」は人の鼻を正面から見た形にかたどった象形文字です。

 それが、中国人や日本人が身振り手振りで自分を表すときに手の人差し指で鼻のあたまを指すことから、鼻をかたどった「自」が、やがて「わたし・みずから」という意味を表すようになり、さらにその後「自」がもっぱら「じぶん」という意味で使われるようになりました。

 それで、本来の意味を表すために「鼻」という漢字が作られました。だから「鼻」の中に《自》という要素が含まれています(《自》の下にあるのは発音を表す要素です)。

 鼻を表す「自」は、また「臭」という漢字にも含まれています。ただし《自》と《大》の組みあわせでできている「臭」は、決して「大きな鼻」という意味ではありません。

 いま使われている「臭」は戦後の日本だけで使われている字形で、正しい形は《自》と《犬》を上下に組みあわせた形でした。

 現代の中国では漢字の形を簡略化しており、中にはずいぶん大胆な簡略化されたものもありますが、それでもこの漢字はいまも依然として《自》と《犬》を組みあわせた形で書かれています(図2)。