加えて深刻なのは、尖閣を含む主権・領土問題に関する教育と社会的認識の欠如である。政治家ですら、基本的事実を正確に理解していない例は少なくない。国として主権を体系的に発信する拠点である「領土・主権展示館」が開設されたのは、2018年になってからであり、国家としての対応があまりに遅すぎたと言わざるを得ない。
「大人の善意」の先で
尖閣に何が起きているのか
戦争に敗れて領土が割譲されることは、歴史上あり得る。しかし、平時であるにもかかわらず、またこれほどまでに主権が脅かされているにもかかわらず、国民から政治家に至るまで危機感が希薄であるとすれば、それは国家として異常な状態であると言わざるを得ない。
尖閣問題の推移を振り返れば、日本政府は「(尖閣諸島の)平穏かつ安定的な維持管理」を一貫して基本方針として、「大人の善意」に基づく適応型の対応を取り続けてきた。
『「力の時代」を生き抜く 戦略的思考』(垂 秀夫、文藝春秋)
これに対し、中国側は国家を挙げた対応――公船の投入、経済的威圧、反日デモの動員など――を組み合わせた総合的行動を取ってきたことがわかる。近年では、中国の海警船による活動が、尖閣諸島周辺海域において常態化している。具体的には、海警船が荒天時などを除き、ほぼ毎日のように尖閣諸島周辺の接続水域内に進入し、航行・滞留する状況が続いている。また、日本の領海内への侵入事案も断続的に発生しており、その頻度は月に複数回に及ぶことが日常的となっている。
これらは、いずれも国際法上直ちに主権移転を意味するものではないが、中国側が公船を用いて活動の常態化を図り、日本の対応能力と意思を試し続けていることは明らかである。他方において、日本側も海上保安庁による警告・監視・退去要求を一貫して継続しており、法執行の実態としての実効支配が失われているわけではない。しかし、このような低強度の圧力が長期にわたって積み重なれば、日本に不利な既成事実が形成されかねないという構造的リスクを内包している点は、冷静に認識しておく必要がある。







