「昼食に何を食べたか、味も覚えていない」――その原因は、脳が「自動操縦モード」のまま働き続けていることにあるのかもしれない。睡眠、集中力、ストレス、老化……など、幅広い有効性が認められているマインドフルネスを日本で最も広めたベストセラー『世界のエリートがやっている 最高の休息法』。その内容に最新研究と音源を加えた『世界のエリートがやっている 最高の休息法[完全版]』が刊行された。本書には、食事の時間をそのまま脳の休息に変える「食事瞑想」も書かれている。今回は、米国で30年以上診療を続ける現役の医師、著者の久賀谷亮氏のインタビューを掲載する。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

【精神科医が解説】脳の疲れが取れる「食事中」の習慣とは?Photo: Adobe Stock

マルチタスクは脳を疲弊させる

――現代人は本当に忙しく、常にスマートフォンを見ながら仕事をし、移動中もイヤホンで音声を聴くなど、ついいろいろなことを同時にこなそうとしてしまいます。『世界のエリートがやっている 最高の休息法[完全版]』では、こうした「マルチタスク」が脳を疲弊させると書かれていますね。

久賀谷亮氏(以下、久賀谷):ええ。私たちはコンピューターのように複数の処理を同時にこなす「ながら作業」が効率的だと思い込んでいます。

しかし人間の脳は、マルチタスクをするとき、実は目まぐるしく注意の切り替えを行っているだけで、膨大なエネルギーを浪費しているのです。日常のあらゆる動作を無意識にこなしている状態を、私は「自動操縦モード」と呼んでいます。

服を着る、歯を磨く、歩く。こうした行為を自動操縦でこなしながら、心は常に「過去の後悔」や「未来の不安」をさまよっている。これこそが、脳のエネルギーの60~80%を消費する「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」を過剰に働かせ、脳を疲労させる最大の原因です。

――なるほど。とくに忙しいと、昼食すらもパソコンの画面を見ながら、あるいはスマホでニュースを読みながら「ながら食べ」をしてしまいます。

久賀谷:それは最も脳を疲れさせる行為の一つですね。何を食べたか味も覚えていないような状態では、脳はまったく休息できていません。

食事の時間を「脳を休める瞑想の時間」に

久賀谷:そこで私がおすすめしているのが、「食事瞑想」というマインドフルネスの実践です。文字通り、日々の食事の時間を「脳を休める瞑想の時間」に変えてしまうのです。

――食事をしながら瞑想をするのですか? 具体的にはどのようにやるのでしょう。

久賀谷:やり方はシンプルです。目の前にある食べ物を、「あたかも初めて見るかのように」よく観察するのです。たとえばサンドイッチなら、パンの表面の凹凸や焼き色をじっくり見る。匂いを嗅ぐ。そして手に取ったときの重さや感触を感じる。口に運ぶときの自分の腕の筋肉の動きにまで細かく注意を向けてみてください。

――なんだか、食べるまでにすごく時間がかかりそうですね(笑)。

久賀谷:最初はそう感じるかもしれませんね(笑)。でも、瞑想の時間をなかなかとることができない人でも、食事の時間を瞑想の時間にしてしまうことは難しくないと思うんです。

食べ物を口に入れたら、噛みちぎる感覚、口の中で咀嚼するときの音、唾液があふれてくる感覚、そして喉を通って胃に落ちていく感覚にまで神経を集中させてみてください。これをやると、普段私たちがいかに「味を感じずに自動操縦で食べていたか」に気づくはずです。目の前の「いまここ」にある感覚に集中することで、脳のDMNの過剰活動が抑えられ、高い集中力と休息効果が得られます。

過食や衝動食いを抑えられ、ダイエット効果も

――脳の休息になるだけでなく、食事そのものも美味しく感じられそうです。

久賀谷:その通りです。さらに嬉しいことに、食事瞑想にはダイエット効果も期待できます。「食べたい」という衝動に気づき、食べている感覚をしっかり味わうことで、ストレスによる過食や衝動食いを抑えることができるからです。忙しいビジネスパーソンこそ、1日のうち1食だけでも、スマホを置いて食事瞑想に取り組んでみてください。