「とりあえずシャンパンで!」。レストランやおもてなしの機会で、発泡性のワインをすべて「シャンパン」と呼んでいないだろうか。実はそれ、大人の教養としてはかなり恥ずかしい振る舞いかもしれない。世界一有名なスパークリングワインであるシャンパーニュは、その名前に対して異常なほどの執念を燃やしている。ワイン専門家である水上彩の著書『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』から、トップブランドが名前に命を懸ける理由と、ビジネスにも通じる厳格なブランディング戦略の裏側を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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圧倒的なブランドを守る「鉄壁の掟」
レストランでスパークリングワインを注文する際、何気なくすべてを「シャンパン」と呼んでしまう人は少なくない。
しかし、本物の「シャンパーニュ(シャンパン)」は、厳しい条件をクリアした選ばれしワインだけに許された特権的な名称だ。
ワインジャーナリストの水上彩氏も、著書『ワインの世界地図』のなかで、彼らのブランド戦略について次のように述べている。
シャンパーニュは、名前を守ることに命を懸けています。シャンパーニュ地方で造られて規定を満たしたワイン以外は、断固として「シャンパーニュ」とは名乗らせない。その監視の目は、世界一厳しいと言われています。
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より
ブランドの価値を高めるのは、こうした一切の妥協を許さない厳格な姿勢の積み重ねなのだ。
天下のハイブランドすら退ける執念
彼らの名前に対する執念は、単なる「ワイン業界内のルール」にとどまらない。
水上氏は、異業種の世界的ブランド相手に一歩も引かなかった有名な事件について解説している。
当時、サンローランが「Champagne(シャンパーニュ)」という名前の香水を発売しました。
「祝祭のきらめきを表現したい」というオマージュでしたが、現地の委員会は「シャンパーニュの高級なイメージへのただ乗りだ」と猛反発し、即座に提訴。
結果は、シャンパーニュ側の完全勝利です。天下のサンローランであっても、その名前を使うことは許されず、香水は「Yvresse(イヴレス=陶酔)」への改名を余儀なくされました。
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より
一流ブランドのオマージュすら「ただ乗り」として徹底的に排除する。
この執念こそが、世界中の誰もが認める圧倒的なブランド価値を守り続けているのだ。
たかが名前と侮ってはいけない
自らの名前を守るという明確な意志がなければ、ブランドはあっという間に消費されてしまう。
著者は最後に、私たち飲み手に対しても次のように警鐘を鳴らしている。
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より
「発泡性のワイン=シャンパン」という安易な思い込みは、彼らが命懸けで築き上げてきたブランドの歴史を無視する行為でもある。
本物の価値を知る大人の教養として、言葉の重みと正しい知識を持っておきたいものだ。
ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。








