「お酒を飲んでこそ本音で語り合える」「飲みニケーションも仕事のうちだ」――。昭和の時代から日本の職場で当たり前のように語られてきた「飲みニケーション」。しかし、お酒を好まない人や、育児や介護などで夜の会合に参加できない人にとっては、不公平感やモヤモヤを抱く温床になっています。果たして、お酒を介した人間関係は本当にキャリアに有利に働いているのでしょうか。話題の書籍『働き方の科学』より、飲みニケーションと出世・格差のシビアな関係を紹介します。(構成/ダイヤモンド社・上村晃大)

居酒屋・飲み会Photo: Adobe Stock

お酒が飲めない人が抱く「不平等感」

 皆さんの職場にはまだ「飲みニケーション」は健在ですか?

 主に職場の上司や同僚とお酒を飲みながらコミュニケーションをとることを指すこの言葉ですが、あまりお酒を飲まない人からすると不平等感があるかもしれません。お酒の席に参加しやすい人だけが上司に気に入られたり、重要な情報やキャリアの機会を手に入れたりしているように見えるからです。

 話題の書籍『働き方の科学』には、飲みニケーションと出世の関係を調べた研究を紹介しています。

接待や宴席が禁止されたことで起きた「変化」

 上司や取引先との付き合いにおいては、お酒も重要なツールの1つです。「飲みニケーション」という言葉があるように、お酒はコミュニケーションの潤滑油だと一部では考えられています。
 しかし、このような場は、誰にとっても平等ではありません。お酒をたくさん飲み、男性中心の宴席に参加しやすい人ほど、人脈を広げやすくなります。反対に、そこに入りにくい人は、たとえ能力が高くても、重要な情報や機会から遠ざけられてしまいます。
 深川大学のディ・ルー助教授らは、中国企業を対象に、こうした男性中心のネットワークが女性役員の登用を妨げている可能性を検証しました(*1)。
 中国では、政府関係者や取引先との関係づくりに、宴席が重要な役割を果たしてきました。特にアルコール度数の高い「白酒」を飲む宴席は、単なる食事の場ではなく、信頼関係を築く場でもありました。
 しかし、2012年末に習近平総書記による「反汚職運動(中央八項規定)」が始まり、政府関係者への豪華な接待や宴席が厳しく制限されました。つまり、お酒を通じたビジネス上の人脈づくりが、以前ほど機能しにくくなったのです。
 その結果、反汚職運動の後、もともと飲酒文化が強かった地域の企業ほど政策の影響は大きく、女性役員の割合が顕著に上昇していました(*2)。飲酒文化が最も強い地域と最も弱い地域を比べると、女性役員比率の上昇幅には5.5%ポイントの差がありました。中国では女性役員比率が平均17%程度であることを踏まえると、これは大きな変化です。また、男女間の賃金格差も縮小しました。

 お酒による接待を禁止した結果、今まで接待に参加できなかった女性の役員比率が上がり、男女間の賃金格差も縮小したそうです。飲み会が男性にとって有利なキャリア形成の場として機能していたと言えそうです。

 お酒の席が「仕事の質や成果」とは無関係なところで、特定の集団に有利に働いているという実態は、こちらの記事で紹介した「タバコミュニケーション」の構造とも完全に一致します。


*1 Deng, J., & Lu, D. (2024). The old boys’ club and board gender diversity: Evidence from the anti-corruption campaign in China. Journal of Economic Behavior & Organization, 221, 626-656. https://doi.org/10.1016/j.jebo.2024.04.011
*2 ルー助教授らは、飲酒文化の強さを「ある都市の白酒製造企業の総売上高を、その都市のGDPで割った値」で定量化しました。白酒の醸造には特定の水質や気候条件が必要です。交通網が未発達だった時代、生産拠点の周囲には自然と強い飲酒の伝統が形成され、それが現代まで文化として根付いていると考えられています。また、中国では地域保護主義の傾向があり、地元のブランドを消費する習慣があるため、地域の生産量と消費量には強い正の相関が見られます。