レストランやワインショップで、本当にコストパフォーマンスの高いワインを探すのは至難の業だ。高くて美味しいのは当たり前だが、「安くて信じられないほど美味しい」奇跡のようなワインはどこにあるのか。実は、プロのソムリエや専門家たちが「本当は教えたくない」とこっそり自宅に常備している、秘密の産地があるという。ワイン専門家である水上彩氏の著書『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』から、フランスの高級ワインに匹敵する品質でありながら、驚くほどリーズナブルな価格で手に入る「穴場の産地」の秘密を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

プロが本当は教えたくないワイン産地・ベスト1Photo: Adobe Stock

プロがこっそり愛飲する「秘密の宝物」

 世の中には、安くて美味しいとされるワインがたくさんあふれている。

 しかし、日々数え切れないほどのワインをテイスティングしているプロたちが、プライベートでこっそり楽しんでいる「本当の穴場」はどこなのだろうか。

 ワインについて文章を書く仕事をしている水上彩氏も、著書『ワインの世界地図』の中で、圧倒的なコストパフォーマンスを誇る秘密の産地について次のように述べている。

コストパフォーマンス抜群の推しワインを一つ挙げるなら、私は迷わず南アフリカ産をおすすめします。
その穴場感は、私たちプロも「本当はあまり教えたくない」と、こっそり自宅のセラーに常備してしまうほど。
SNSで"南ア"のワインについてつぶやけば、たちまち「南ア界隈の人」からコメントがつくように、魅力にはまった愛好家たちの熱量は高く、秘密の宝物を共有するような、不思議で温かい引力があるのです。
でも、ふと疑問に思いませんか?
「どうしてそんなに高品質なワインが、フランスの数分の一の値段で買えちゃうの?」
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より

 プロがこぞって買い占めたくなるほど、南アフリカのワインは「価格と品質のバグ」が起きているのだ。

圧倒的なコスパを生む「南極からの贈り物」

 アフリカと聞くと、灼熱の太陽とサバンナを連想する人が多いかもしれない。

 だが、南アフリカのワインがフランスの高級品に匹敵する品質を持つ理由は、そのイメージとは真逆の「気候」にあった。

 水上氏は、高品質なワインを生み出す自然の秘密を次のように明かしている。

秘密は、アフリカのイメージを覆す「寒さ」にあります。
南極からの冷たいベンゲラ海流(ペンギンがいるほど!)と、ケープドクターと呼ばれる強烈な海風。
高い標高が重なるエリアもあり、これらがぶどうをゆっくり冷やし、美しい酸味と緊張感をもたらします。
内陸の寒暖差も強烈で、例えば温暖なスワートランドは昼間は暑くても、夜は上着が手放せないほど冷え込みます。
一方、海沿いのへメル・エン・アールデや高地のエルギンに至っては、ブルゴーニュ品種の聖地と呼ばれるほどの涼しさです。
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より

 この特異な寒冷気候が、安価なワインには絶対に出せない「美しい酸味」と「高級感」をぶどうに宿しているのだ。

高騰するフランスワインの「最高の避難所」

 現在、世界的に大ブームとなっているフランスのブルゴーニュ地方のワインは、価格が高騰しすぎて一般人にはなかなか手が出ない存在になりつつある。

 しかし、南アフリカならその数分の一の価格で、プロも唸る至高の味わいに出合うことができるという。

カリスマ生産者ピーター・アラン・フィンレイソンが造る〈クリスタルム〉のピノ・ノワールは、ブルゴーニュ愛好家も唸る品質。にもかかわらず、私の大好きな「キュヴェ・シネマ」は、コロナ禍以降少し値上がりしたものの、1万円でお釣りがくる価格。
この品質なら、数倍の価格でもおかしくありません。
「ブルゴーニュが高嶺の花になって寂しい……」と嘆いているあなたを、南アフリカは「おかえり」と迎えてくれる、懐の深い場所なのです。
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より

 ブランド名や昔からの思い込みに縛られず、本当に価値のあるものを見極める。

 それこそが、情報があふれる現代において、賢く豊かな生活を送るための「大人の教養」なのだ。

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。