会社を辞め、家を売り、無線機も持たずに航海に出た夫婦。自作した船でイギリスからニュージーランドに向かったが、ガラパゴス沖で突如クジラに襲撃され海に投げ出された。事実は小説より奇なり。118日間、生死をさまよう最上級のスリルと人生模様を堪能できる全米ベストセラー『極限の漂流118日間』から、「後悔20000%の状況でも心が折れない人の共通点」についてライターの小川晶子氏が特別レポートする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)
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「選択」を「正解」にしていくしかない
人生は「選択」と「決断」の連続だといわれる。
どこに住むか、何の仕事をするか。
誰と会い、誰と別れ、誰を伴侶とするのか。
私たちはみな選択し、決断してきたのだ。
「あのとき、ああすればよかった」あるいは「ああしなければよかった」と後悔することはある。
でも、時間を巻き戻すことができない以上、その選択を正解にしていくしかない。
「あの失敗があったから唯一無二の経験をすることができた」
「あの失敗から学び、その後の人生をよくすることができた」
最終的にはそう思えるよう、また新たな選択をし、行動していくほかないのだ。
故郷を捨てる決断、船を捨てる決断
極限を生き抜いた夫婦の悲哀を描いた傑作ノンフィクション『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著/村井章子訳)では、イギリス人夫婦が船で「イギリスを離れて二度と戻ってこない」決断をする。
家を売ってヨットを買い、たったふたりで太平洋を航海するのである。
しかも、船には無線通信機も装備しない。あまりにも無謀ではないか?
まわりの誰もが「頭おかしい」と思った。
しかし夫のモーリスは「自分たちの自由を外界の干渉から守りたい」ため、大海原で誰とも連絡が取れない状況を選んだのだ。
そして、まさかの事故が起きる。
巨大クジラとの衝突により、船に穴が開いてしまったのだ。
どんどん水が入って来る状況をなんとかしようと努力したが、決断しなければならないときがきた。
船を捨てて脱出である。
決断を間違えたという後悔
目の前で全財産をかけた船が沈んでいく。
救命ラフトとゴムボートで太平洋のど真ん中を漂いながら、孤独と恐怖にさいなまれ、極限の状況に追い込まれていくのだ。
私が同じ立場だったら……、「あのときああしていれば」との後悔で狂いそうになるだろう。正気を保てる自信がない。
実際、モーリスは後悔で苦しんだ。
パナマ出発を一日遅らせることもできたし、コースをもっと南にとることもできた。そうすればクジラに出くわすことはなかっただろう。いや、仮にクジラに遭遇したとしても、船を救う方法はあったはずだ。
そもそも最初の一撃を喰らってから船が沈み始めるまでに四〇分あった。
ポンプで水をくみ上げる試みをあきらめるのが早すぎたのではないか。
もっと穴に詰め物をすれば、水を十分に吸い上げるまでヨットを安定させておくことができたのではないか。
――『極限の漂流118日間』より
この最悪の状況を避けられたはずの選択が次々に思い浮かぶ。
無線通信機がないのも致命的だ。
しかし、いくら後悔しても失った船を取り戻すことはできない。
今の状況を生き抜くためにどうするかを考えるしかないのだ。
あれがいっさい起きなかったほうがよかったか
ふたりは何度も絶望しかけたが、118日間にもわたる漂流から奇跡の生還をとげることができた。
漂流中の選択の一つひとつが、生き延びることにつながったと言うこともできるだろう。今何をするのか、何を食べるのか、パートナーにどんな言葉をかけるのか。
選択を間違えれば、死がすぐ隣に控えているというギリギリの状況である。
しかし、後悔に時間を使うのではなく、未来を見ようとしていたのが印象的だった。
モーリスは晩年に受けたインタビューで、
「あれがいっさい起きなかったほうがよかったか」
と聞かれた。
生還後に一躍有名人になったことも含めて、遭難と漂流のことを指している。
さて、どう答えたのだろう。
モーリスの答えは、ぜひ本書を読んで確かめてほしい。








