知識や経験があれば、ある程度の仕事はこなせる。しかし、過去にうまくいった方法が次にも通用する保証などない。状況が変われば、同じ問いに対する答えも変わるからだ。では、知っている答えを当てはめるのではなく、その都度「何から始めるべきか」を考えるには一体どうすればいいのか。東証プライム上場企業社長木下勝寿氏は著書『地頭スイッチ』で、AIが急速に進化する今だからこそ、人間には「地頭」を使うことが求められると語る。AIに「答えを求める人」と「何を考えさせるかを決められる人」の違いについて、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏が木下氏に伺った。(構成/ダイヤモンド社・井黒考信)
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知識だけに頼って地頭を使えていない
――前回「地頭と知頭(ちあたま)の違い」について伺いました。たとえば振られた仕事の内容によって、「これは地頭を働かせた方がいい」「これは知っていることを適用できるから知頭で何とかなる」と判断する必要もあるのでしょうか。
木下勝寿(以下、木下):「地頭を働かせる」とは、複雑なことを考えているようで意外とシンプルです。知頭は、目の前の問いに対して知っている答えを出すための頭です。簡単な問題であれば「過去に経験があるから」と済ませて良い場合もあるでしょう。
しかし、過去に経験があるからと言っても、状況によって答えが変わることもあります。知頭だけで動いていると、その変化に対応できず失敗することがある。だから、全てのことに対して地頭を使う癖を持ったほうがいいと思います。
――どんな仕事であっても、まずは地頭を働かせる方向を選んだ方がいいですね。
木下:たとえば、マニュアルを渡されて「この通りにやってください」と言われた場合、地頭を使って考え続けていれば、「もしかすると、別の方法のほうが効率が良いのではないか」と気づくことがあります。
――プライベートでも役に立つ考え方なのでしょうか。
木下:これまでに経験したことのないことに取り組むときには有効です。
例として、子どもの塾を選ぶケースを想像してください。知頭で考えると、まず自分が知っている塾を思い浮かべます。さらに、「あの塾は人気らしい」「知り合いの子が通っているらしい」といった外部情報を集めて、その中から最適解を選ぼうとします。
一方の地頭では、最初に「そもそも、この子はなぜ塾に通う必要があるのか」「この子に本当に必要なものは何なのか」という前提から考え始めます。そうすると、実は塾ではなく家庭教師のほうが適しているという結論に至ることもある。
知っている選択肢の中から反射的に答えを選ぶ場合と、地頭を使って目的に沿った答えを生み出す場合とでは、アウトプットが大きく変わることがあります。
AI時代に人間が求められるもの
――地頭を使うには一度立ち止まって考える必要があります。そのぶん、時間がかかるし面倒だと感じる人も多いと思います。反射的に「こうすればいいんじゃないか」と答えを出すことは、仕事ではあまり良くないのでしょうか。
木下:反射的に答えるだけなら、もうAIで十分なんですよ。
これだけAIが発達すると、人間に求められるのは、より上流にある「思考する部分」になってきます。反射的に答えるというのは、考えているのではなく、単に反応しているだけとも言えます。
それだけでは、人間が行動する意味や価値が次第に小さくなってしまいますよね。
――人間がきちんと考えること、それこそ今回の地頭スイッチを押して考えることは、まだAIより優れている部分が多いのでしょうか。
木下:AIは日進月歩で進化していますが、最終的には「意図」の部分が非常に重要になると思います。
つまり、「AIに何を依頼するか」「AIを使って最初に何を考えさせるか」という部分が、人間にとって重要になってきます。
――地頭とは「何を考えなければならないのか」を考えるための方法で、そのスイッチを入れるための手段である、というイメージですね。
木下:AIに何を指示するのかを決める部分は人間に残ります。実際に業務を実行する部分は、仕事によっては今後AIに代替されていくでしょう。
たとえばディープリサーチを使う場合でも、「これを調べて」と投げかける問い自体がズレていることはよくあります。最初の問いがズレていれば、AIはその問いに沿って関係ないことを一生懸命調べてしまう。
だからこそ、「そもそも何を調べる必要があるのか」「何を考えるべきか」を決めるところが重要なんです。
――自分が取り組むべきことに対し、答えがあるかどうかにかかわらず、まず「何から考えなければいけないのか」を見極められる力。それが「地頭」ということですね。
(第4回に続く)
株式会社北の達人コーポレーション(東証プライム上場)代表取締役社長
神戸生まれ。大学在学中に学生企業を経験し、卒業後は株式会社リクルートで勤務。
2002年、eコマース企業「株式会社北の達人コーポレーション」設立。
独自のWEBマーケティングと管理会計による経営手法で東証プライム上場を成し遂げ、一代で時価総額1000億円企業に。
フォーブス アジア「アジアの優良中小企業ベスト200」を4度受賞。
東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」1位。日本国より紺綬褒章8回受章。
著書にベストセラーとなっている、『売上最小化、利益最大化の法則』『時間最短化、成果最大化の法則』『チームX』『「悩まない人」の考え方』(以上ダイヤモンド社)、『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』(実業之日本社)、『戦わずして売る技術』
(幻冬舎)などがある。






