もう一つの大きな要因は、人々がタクシーを呼び止める場所の問題だ。

 道路交通法上、「駐停車禁止」の場所は、街中に驚くほど多い。例えば、交差点とその端から5メートル以内。横断歩道の前後5メートル以内。どれもタクシーが停まりやすそうに見えて、実は法的にアウトな場所である。

 こうした場所では、乗客を乗せるために車を停めること自体が、駐停車違反になる可能性がある。ドライバーは法令遵守や「取り締まりを避けるため」といった理由で客を乗せられないのだが、実はそれだけではない。

「駐停車禁止」の場所で客を乗せる
意外なリスクとは?

 今の時代は、タクシーが「駐停車禁止」の場所で客を乗せる場面をスマホで撮影され、会社名やナンバーごとSNSに晒される恐れがある。炎上リスクを低減する目的もあり、「駐停車禁止」の場所を避けているというわけだ。

 実際に、一度そういう投稿を見て以来、妙に神経質になった同僚もいた。現場の感覚で言うと、「その場に居合わせた人の視線」はかなり恐ろしい。

 現代のタクシードライバーは、「駐停車禁止」に該当するかどうか微妙なエリアで手を挙げられた際、「客を乗せて得られる売り上げ」と「摘発やトラブルに発展するリスク」を、その場の1~2秒で天秤にかけている。

 少しでも法令違反や炎上のリスクがある場合、天秤は後者に傾く。ドライバーが停車のためのブレーキを踏むことはない。

平日深夜の銀座で
「路上でのタクシー乗車NG」のワケ

 道路交通法とは別に、「タクシー業務適正化特別措置法」という法律で乗車が制限されているエリアもある。

 タクシー事業の適正化や輸送の安全性向上を目的とした法律で、対象エリアの代表例は東京の銀座だ。

 銀座の一部エリアでは、土日祝日を除く午後10時から午前1時の間、指定されたタクシー乗り場以外での客待ちと乗車ができない。大阪の北新地や南地にも、時間帯によって似たルールがある。

 一説によると、このルールができた背景には、高度経済成長期のタクシードライバーによる悪質な営業行為があるという。

 当時の繁華街ではタクシーの需要が高まり、夜になるとタクシーが殺到していた。だが、その中には、近距離客を断ったり、高額な料金を吹っかけたりする悪質なドライバーも多かった。乗客とのトラブルが相次いだため、法整備のきっかけになったと聞く。

 このルールが厄介なのは、破ったときの罰則が、ドライバーと所属会社に重くのしかかる点だ。不正が発覚したドライバーや所属会社は、行政処分や乗務停止などのペナルティーを受ける場合がある。乗務停止処分となり、長距離利用や高単価の利用が見込まれる客が多いエリアで営業できなくなるのは、ドル箱を失うのと同じだ。

 そのような事情もあり、路上で切実に手を挙げている人がいても、それが「乗車NG」のエリアや時間帯であれば、ドライバーは心を鬼にして通り過ぎるしかない。