ビジネスの実践で絡み合った思い込み
一つ一つの前提は、指摘されれば「確かにそうかもしれない」と思えます。ところが、いざ手放そうとすると、すぐに元の認識に引き戻されます。会議では企業を主語にした議論に戻り、数字を求められれば測定できる層に議論が偏る。短期の業績が厳しくなれば、長期の投資は後回しにされる。
なぜ、前提は戻ってくるのでしょうか。
それは、一つ一つの前提が単独で存在しているわけではないからです。前提は互いに支え合い、一つの認識のシステムを作っています。
例えば、「ブランドは管理できる資産である」という前提は、「ブランドは約束であり、CXはその履行である」という前提に支えられています。企業が約束し、それを履行する主体である。だから、その約束の効果も資産として管理できる。そう考えるとき、企業が主語であるという共通の認識が、二つの前提を同時に生かしています。
同じことは、「長期と短期は対立する」という前提にもいえます。この前提は、「測定できないものは管理できない」という前提に支えられています。測りにくい長期の価値は議論の外に置かれ、測りやすい短期の成果だけが経営に載る。その結果、長期と短期が対立しているように見えてくるのです。
だから、一つずつ前提を取り除こうとしても、組織はなかなか動けません。必要なのは、個別の前提を順番に崩していくことではなく、それらを支えている認識のシステム全体を揺らすことです。
一つの転回が認識のシステム全体を動かす
では、その認識のシステム全体をどう動かせば良いのでしょうか。連載第2回で示した一つの転回にヒントがあります。
「主語を企業から、顧客の感情の記憶に移す」
この転回によって、これまで問い直してきた前提は、同時に根拠を失っていきます。ブランドは「管理できる資産」ではなく、顧客の記憶の中で育つプロセスになる。壁の問題は「体制の問題」ではなく、企業を主語にした認識の問題になる。測定できないものは「議論の外」ではなく、関係の深さが宿る場所になる。長期と短期は「対立するもの」ではなく、同じ1本の線の内側で両立するものになる。
主語を変えることは、単に見方を変えることではありません。前提同士を支えていた認識の土台そのものを組み替えることです。これが、この連載で提示してきた原理の最も深いところにあるものです。







