主語を変える「脱学習の力」

 この転回は、一度全員の理解をそろえれば終わりというものではありません。

 企業を主語にした認識は、長年の経営実践の中で深く根を張っています。会議の議題、予算の配分、評価指標、報告の言葉。組織の日々の動きは、その多くが、「企業が主語」の前提の上に組み立てられています。だから一度「主語を顧客に移そう」と決めても、翌日の会議で報告を求められれば、また元の認識に引き戻されます。

 前提を手放すとは、一度の理解で終わることではありません。日々の意思決定の中で、何度も手放し続けることです。拙著『いちばんやさしいCX経営の教科書』では、これを「脱学習の力」と呼びました。学んできたことを忘れるのではなく、相対化し、必要に応じて手放すこと。これが、変化の時代に組織が動き続けるための根本的な力です。

 そして、脱学習は個人だけでできるものではありません。組織全体で一緒に取り組む必要があります。ここで、この連載で繰り返し論じてきた「ブランドとCXを一緒に語る」という姿勢が改めて意味を持ってきます。

 ブランドとCXを別々に語り続けている限り、それぞれの部門が抱えている前提は、各部門の中に残り続けます。他部門の前提と突き合わせる機会がなければ、自分たちの前提に気付くことすら難しくなります。

 しかし、ブランドとCXを一緒に語ろうとした瞬間、それぞれの部門が抱えてきた前提は、対話の場に引き出されます。そのぶつかり合いの中で、一つずつでは動きにくかった前提が、互いを照らし合いながら、少しずつ相対化されていきます。

 ブランドとCXを一緒に語ることは、連携を良くするためだけの話ではありません。組織全体で脱学習を進めるための、最も現実的な入り口なのです。