フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える試乗したホンダ「Super-ONE」 Photo by Ferdinand Yamaguchi

深夜の首都高、試乗車のハンドルを握りながらずっとニヤけていたというフェルさん。さらには翌日、ライバル社のエンジニアから、悔しさと羨望の入り混じった電話があったという。それが、ホンダの軽自動車EV「N-ONE e:」をベースに造った、「Super-ONE」。2兆5000億円もの巨額損失にあえぐホンダが、なぜこんなクルマを世に出せたのか?楽しすぎるクルマ、Super-ONEの試乗記をお送りします。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)

ニヤけが止まらない、深夜の首都高

「フェルさん。運転しながらずっと笑ってるね」

 助手席のオトナ女子が、カメラをこちらへ向けながらポツリと呟いた。言われてみれば、私は首都高に乗ってからずっとニタニタと笑っている。

 彼女とのこの先の展開を予想してニタついている訳ではない。断じてない。

 つまりこのクルマは、それほど「楽しい」のだ。

 ホンダ Super-ONE。

 久しぶりに運転していて笑みがこぼれるクルマに乗った。

 木曜日深夜。首都高大回り周回ルート。この楽しさを仲間に共有しようと、Facebookに写真を上げると、遅い時間にも関わらず、たくさんの「いいね!」が付いた。

深夜の首都高笑いが止まらない、深夜の首都高 Photo by F.Y.

ライバル社エンジニアからの電話「そこがホンダさんですよ」

 その翌日、某社でEV開発を担当するエンジニアから連絡があった。

「フェルさん、Super-ONEに試乗しているんですよね」

「ええ、4日ほど預かって、じっくり乗り込んでいます。最高に楽しいクルマです」

「実は何年も前に、同じようなクルマの企画を出していたんですよ」

「へえ、それは初耳」

「ウチだって軽のEVは持っている。むしろ軽EVの歴史はウチのほうが長い。『簡単に』とまでは言いませんが、ウチだって同じようなクルマは、いや、何ならもっと凄いクルマだって造ることができる」

 ふだんは冷静な彼が、珍しく興奮している。

「それなら御社でも出せば良かったのに。なぜ出さなかったんです?おっしゃる通り、『簡単に』とはいかないでしょうが、新車開発ほどの工数はかからないでしょう?」

 こう返すと、かれは嘆息混じりにこう言った。

「そこがホンダさんですよ。あんなムチャなクルマを本当に造って、本当に売ってしまう。そこがホンダさんの良いところです。ウチは企画書の段階で『こんなクルマ、売れるわけないだろうが』の一言でボツですよ。

 でも見てください。メチャ売れてるじゃないですか。納車は1年待ちという話じゃないですか。ああチクショウ。ホンダさんが羨ましい……」

 大魚を釣り逃がした某社の判断が間違っていた訳ではあるまい。企業としては、むしろ正しい判断だ。自動車メーカーは慈善事業ではない。「利益を上げなければならない」という避けようのない縛りがある。世界中の自動車メーカーで、こうした「面白そうだけど、それ商売になるの?」という企画が日々生まれては却下され、人知れず消え去っているのだ。面白い企画を立てるエンジニアはどこの会社にだっている。ただ、それを実現する会社は数少ない。ホンダはそれをやった。やり遂げた。