対立を避けるための
時間と手間を惜しまない

 さて、この「勝ち負けをつけないゴリラの流儀」は、現代を生きる私たち人間に、とても大切なことを教えてくれます。

 現代の人間社会は、ありとあらゆる場所に「序列」がありますよね。テストの点数、会社での役職、SNSのフォロワー数……。私たちは言葉という便利な道具を手に入れ、数値化によって世界を測り、人間関係をも数値で格差をつけ、常に「どちらが上か下か」、そして多数決によって「どちらが正しいか」をはっきりさせようとしてしまいます。

 しかし、白黒をはっきりつける社会というのは、負けた側に「屈辱」や「恨み」を生み、それが巡り巡って争いの種になる。現代のギスギスした空気の正体は、ここにあるのではないかと私は思うのです。

 ゴリラたちは、言葉を持たない代わりに、相手と「視線」を合わせ、同じ「場所」を共有し、身体を触れ合わせることを何より大切にします。彼らには「負ける」という表情も姿勢もありません。誰かが勝って誰かが負けるのではなく、お互いが納得するまで顔を見合わせる。そうやって、決定的な対立を避けるための「時間」と「手間」を惜しまないんです。

 これは、効率ばかりを追い求める現代人からすれば、ひどく無駄なことに見えるかもしれません。でも、この「無駄な時間」こそが、信頼関係という目に見えない絆を編み上げていくんです。

 今、私たちの社会はデジタル化が進み、身体を通さない「言葉だけのコミュニケーション」が暴走しています。相手の顔を見ずにSNSで論破し、勝った負けたと騒いでいる。でも、勝負に勝って「繋がり」を失ってはいないでしょうか。