総合地球環境学研究所所長 山極壽一Photo/Kazuki Mita
*本稿は、現在発売中の紙媒体(雑誌)「息子・娘を入れたい会社2024」の「Visionary Leader 『新しい時代の生き方、働き方』」を転載したものです。

変化の時代、若者はどんな覚悟で社会に出ていけばいいのか——。40年間のゴリラ研究を通し、人間とは何か、社会はどうあるべきか問い続けてきた山極壽一さんが、就活生の子と親の理想的な関係についてアドバイスする。(取材・文/梅原光彦 撮影/三田一季)

親が考える「いい会社」ではなく
息子・娘の能力が生かせる会社を

 総合地球環境学研究所所長として、霊長類学の知見を基に人間の社会や文化について研究を続けている山極壽一さん。京大総長を6年間務め、教授時代も含めて多くの学生を社会に送り出してきた。その経験があるからなのだろうか。山極さんの言葉からは、親がわが子に就職の助言をすることの難しさが伝わってくる。

「年功序列・終身雇用というシステムが崩壊し、親が考える“いい会社”はこの先どうなるか分かりません。親は子どもと年齢も離れているし職業観も違います」

 もはや親が子の会社について考えること自体、古すぎると言う。

「親にできるのは、親の目線でいい会社を選ぶのではなく、息子や娘たちの目線で、きちんと彼らの能力を生かしてくれる、あるいは学ぶ機会を与えてくれる会社を見定める方向に、子どもたちを導くことだと思います」

 “いい会社”は生涯にわたって面倒を見てくれる会社でない。就職後のその先を考えておく必要があると山極さんは語る。そもそも新入社員の3分の1が3年以内に転職しているという現実があるのだ。

「入社して『ダメだったな』『向いてないな』と思ったら辞めて、別のことをやればいいんです。息子や娘に『勤め続けろ』と言うのではなく、また学ばせてもいい、別の機会を与えてもいい、と。親にはそういう包容力を持っていてほしいですね」

 一つの会社に勤め続けることがメリットになるとは限らない。起業も選択肢の一つ。

「最近出会った30代40代の起業家たちは、会社を辞めて自分のやりたいことを掲げて、クラウドファンディングなどで資金を集めています。日本国民のたんす預金も企業の社内留保もそれぞれ国家予算ぐらいあるわけです。このお金をどう使うか。“夢はみんなでかなえましょう”が、これからの時代のキャッチフレーズです」