猿Photo:PIXTA

我々ヒトやチンパンジ、オランウータン、ゴリラなど「ヒト上科」に属する生物は腕を真上に上げられるのに、なぜ他の動物にはできないのか?その秘密は、私たちの体の奥深くに隠された進化の過程にあった。肩関節の構造や胸郭の形が腕の可動域に与える影響を振り返りつつ、ヒト上科の祖先がいつ、どのようにしてしっぽを失ったのか、化石を元に探求してみよう。本稿は、東島沙弥佳『しっぽ学』(光文社新書)を一部抜粋・編集したものです。

ヒト上科の体の特徴
腕を真上に上げられる理由

 類人猿は生物学的に、ヒト上科と呼ばれるグループである。現生のヒト上科には、我々ヒトの他に、チンパンジーやオランウータン、ゴリラ、ボノボ、テナガザルが含まれている。

 そしてヒト上科の体には、いくつか共通して見られる特徴がある。せっかくだからその1つを体感していただこう。

 では一度、腕を真上に伸ばしてみてほしい。長時間の読書はよくない。適度なストレッチが必要だ。さあいい感じに腕は伸びただろうか。何気なくできてしまうその動きこそ、実は皆さんもヒト上科であることの証なのだ。

 ほんまかいな、と思う方もいるだろう。実際、肩関節から真上に腕を伸ばせるヒトに対し、ニホンザルは肘から先しか挙上できない。これは2種の形態学的な違いに起因する動きの差なのである。

 まず馴染みの深い我々の体から考えてみよう。我々ヒト上科では肩関節を構成する骨の1つである肩甲骨が背中側に存在している。だが、その他多くの動物を見てみると、肩甲骨は体幹の側面に存在している。

 イヌやネコで考えると分かりやすいだろう。歩いているときの上肢をよく見ると、肩甲骨の位置が分かる。