「個」があるからこそ
「相手」を思いやれる
海の哺乳類は、ゴリラや人間とはまた違う「個の強さ」に基づいた、ある種、苛烈なまでの思いやりを持っているように見えます。
そもそも、相手を思いやるには「自分と他者は違う」という認識、つまり「個」の確立が必要だといわれています。
鏡に映った自分を自分だと認識できる「鏡映認知」は、ヒト以外ではイルカやシャチ、類人猿、ゾウ、一部の鳥類などで確認されていますね。イヌやネコには難しいと考えられている能力です。
この鏡映認知ができることもあって、イルカやシャチには、明確な「自己」があります。働きアリのような社会性昆虫には、個人の意思はありません。だから働きアリは一生、働きアリのまま役割を終えますね。
しかし、イルカやシャチには「自分」があるからこそ、「相手はどう感じているか」を推し量る余地が生まれます。
私はその「個」の強さが極限状態で発揮される瞬間に、何度も心を打たれてきました。
流氷に閉じ込められた仲間を
見捨てずに戻ってきたシャチ
よく知られているのは、2005年2月、北海道・羅臼の海での出来事です。
知床半島と国後島の間にある流氷が強風で一気に北海道東部の海岸に押し寄せて、羅臼町相泊地区の海岸を一晩で埋め尽くしてしまったときのことです。子どもを含む十数頭のシャチの群れが、比較的浅瀬の海岸に近いところで、押し寄せてきた流氷に閉じ込められてしまったのです。
浅瀬で砕氷船も入れず、流氷を砕いて脱出路を作ることはできません。かといって子どものシャチでも体重は数百キログラム以上に達するので、海岸に引き上げて逃がすこともできませんでした。
浅瀬に入れる漁船で流氷をなんとか砕き、数頭の大人のシャチを逃がしはしたものの、結果的には12頭のシャチが身動きがとれない状態になってしまったのです。







