翌日になってなんとか1頭だけは自力で流氷から脱出できたのですが、残りは息絶えてしまいました。

 このとき、地元でこの救出劇を見ていた人たちは、思いがけない光景を目の当たりにしたのです。

 それは、いったんは脱出したはずの数頭の大人のシャチたちが、取り残された子どもや仲間の鳴き声を聞いたのか、「戻って来ていた」というのです。まだ流氷があり、戻って来たらまた自分自身が閉じ込められて命の危険にさらされるかもしれません。

 それでも彼らは仲間を見捨てなかった。これはたんなる生存本能という言葉だけでは、説明しきれない何かがあるように思えてなりません。

自らを危険に晒してまで
アザラシを助けたザトウクジラ

 シャチだけではありません。ザトウクジラには、自分たちとはまったく無関係な、別種の生き物を助けるという驚くべき行動が報告されています。

『ゴリラ・イルカの仲間を信じる力』書影ゴリラ・イルカの仲間を信じる力』(山極寿一、田島木綿子 青春新書インテリジェンス、青春出版社)

 カナダの研究チームが捉えた映像では、シャチに襲われているコクジラの親子の間に、数頭のザトウクジラが割って入り、盾となって親子を守り抜いていました。

 さらに驚くべきは、アザラシを助けたという事例です。シャチに追われて海に落ちたアザラシを、ザトウクジラが自分のお腹の上に乗せ、仰向けの姿勢で数十分も泳いで逃がしたというのです。

 クジラにとって、仰向けで泳ぐことは呼吸が困難になり、自分自身の命も危うくする行為です。それにもかかわらず、小さなアザラシ一頭のために全力を尽くす。

 こうした「利他的」な行動を耳にするたび、海の哺乳類たちの心には、人間が考える以上の深い共鳴の力が宿っているのかもしれないと考えてしまうことがあります。