厚労省公式サイトに掲載されていたポスターのスクリーンショット
法務省の「ラヴ上等」タイアップに続き、厚労省が「死」を連想させる映画とがん啓発をコラボさせ大炎上しました。なぜ、学歴競争を勝ち抜いたはずのエリート官僚たちが、素人でもわかる「炎上確定案件」を通してしまったのか?(ノンフィクションライター 窪田順生)
炎上必至のポスターが通る謎
エリート官僚のあり得ない判断
突然だが、ちょっと想像していただきたい。がんと診断されて「もしも」のことが頭によぎって不安になっている人や、闘病中で抗がん剤などの副作用で苦しんでいる人が、病院に足を運んでみると、こんな文字が踊るポスターを目にした。
「ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記」
「ステージⅣの大腸がん。それでも力強く生き抜いた《愛の実話》。」
多くの人はメンタルがやられてしまうのではないか。中には「そうだよな……私ももうこの世界からいなくなるかもな」と無力感に襲われる人もいるかもしれない。
ちょっと想像力を働かせれば、このようなポスターを闘病中のがん患者に見せつけることが、いかに「残酷」かというのは、子どもだってわかるはずだ。
しかし、そんな常識がわからない人たちがいる。日本国民の医療行政を担う厚労省の役人だと聞いて、驚くやら呆れるやらという人もいらっしゃるのではないか。
ご存じない方のためになんの話なのか説明しよう。発端は、厚生労働省がAYA世代(15〜39歳)のがん患者や家族に対して、利用できる支援制度やサービスについてのパンフレットを作成したことだった。
厚生労働省サイトのスクリーンショット
これ自体は有益な施策ではあるが、問題はパンフレットの周知を目的に、10月2日公開の映画「ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記」とタイアップして、そのポスターを都道府県や都道府県がん診療拠点病院等に送付したことだった。
当然、批判がわき起こって炎上。8月24日には「がんと向き合っておられる患者さんやご家族等の皆様に対し、不快な思いをおかけしましたこと、心より深くお詫び申し上げます」と謝罪、タイアップを中止することを発表した。
タイアップの中止を発表した厚生労働省サイトのスクリーンショット
中央官庁のタイアップといえば、法務省の炎上が記憶に新しい。更生保護事業の啓発ポスターで、暴走族や少年院上がりといった“元ヤン”の男女の恋愛リアリティ番組「ラヴ上等」シーズン2(Netflix)とタイアップしたことが批判を浴びた。
ご存じのように、日本社会では「昔はヤンチャしましたけど、今は家族も持って落ち着いてマジメに更生しました」という元ヤンを「カッコいい」ともてはやすような風潮がある。
しかし、「昔はヤンチャしました」の中には当然、「被害者」がいる。イジメた側は「若気のいたり」でいい思い出でも、イジメられた側は死ぬまで忘れられない心の傷になっているように、元ヤンの「ヤンチャ」で苦痛、恐怖、屈辱を感じさせられた被害者側は「更生した」と言われても、そう簡単に許すことはできないのだ。そのため、「ラヴ上等」のような“元ヤンエンタメ”を不快に感じる人も少なくない。
そんなかなりリスキー番組で、出演者のひとりが「人に火をつけた」など過去の犯罪を語るシーンがあった。それだけならば「不謹慎だと思うならネトフリ解約すればいい」で済んだ話だが、法務省とタイアップしていたことで「大炎上」してしまったのである。
さて、このような話を聞くと不思議に感じる人も多いのではないか。
霞ヶ関官僚といえば、学歴競争と権力闘争を勝ち抜いてきたエリート集団。政治家と組織の間に挟まれて「バランス感覚」や「空気を読む」という能力に非常に秀でていることで知られている。
そんな聡明な人々が、がん患者に死を連想させるような啓発ポスターを見せたり、「被害者」がいるような人々をエンタメとしてもてはやすような作品に乗っかったりという「判断ミス」を連発することに釈然としない人も多いだろう。
ただ、中央官庁の啓発事業で、危機管理アドバイスをした経験もある立場で言わせていただくと、これは担当者の資質うんぬんという以前に、次のような構造的な問題が大きい。







