稲盛和夫氏 Photo:SANKEI
「何を話すか」よりも、先に考えるべきことがある――。どれほど正しいことを、立派な言葉で伝えても、相手の心に届かなければ意味がない。「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏も、言葉を発する前に、まず相手の立場に立つことを重視していたという。人を動かすリーダーは、話す前に何を準備しているのか。その意外に重要な「話す前の姿勢」を解説する。※本稿は、スピーチコンサルタントの阿部 恵『一目置かれるリーダーの戦略的話し方 アナウンサーが教える言葉を相手に届ける技術』(三笠書房)の一部を抜粋・編集したものです。
「何を話すか?」よりも
先に考えるべきこととは?
優れたリーダーは「何を話すか」を考える前に「誰に話すのか」を気にします。
講演、商談、対談、インタビュー……。
場面は違っても、本質は同じです。相手を知らずに発した言葉は、どんなに正しいことを言っていても、相手の心には刺さりません。
私はこれまで、数多くの経営者、著名人にインタビューしてきましたが、初対面の方とお会いする際は、必ず事前に相手のことを調べるようにしていました。
出身地、経歴、家族構成、趣味、過去の発言、実績、取材記事や動画があれば必ず目を通し、間接的につながっている人が周囲にいれば、できるだけ情報を集める。
すると、相手の信条や価値観、触れられたくない話題が見えてきます。
これは「相手に気持ちよく話してもらうため」であると同時に、「不用意に“場の雰囲気”を悪くさせないため」の準備でもあります。
話す前に相手を知ることは、信頼関係の土台づくりにつながります。また、人は自分と共通点のある相手に親近感を抱きやすい傾向があります。これは心理学で「類似性の法則」と呼ばれます。
以前、ある会社の研修に講師として呼ばれた際に、「川崎市出身です」と自己紹介をしたら、休憩時間に「私も川崎出身なんです~」と、声をかけられたことがあります。
地元ネタでひとしきり盛り上がって話をしているうちに、なんと同級生のお嬢さんだったことが判明!一気に打ち解け、後半の研修がぐんとやりやすくなりました。
これは偶然ではありません。こちらから投げかけた、いくつかの“フック”のひとつに相手が反応してくれた結果です。私は意図的に、受講者との共通の話題になりそうなフックを投げかけていたのです。
フックとなる話題は、なんでもかまいません。
たとえば、年代が近い、出身地が同じ、同じ部活をしていた、好きな音楽や食べ物が似ている……。そんな小さな共通点でもいいのです。
「野球部出身なんですね!」
「ラーメンは醤油より味噌派です♪」
「カラオケでよく歌うのはサザンオールスターズですかね~」
こうしたひと言が、相手との距離を一気に縮めます。
京セラ・KDDIの創業者である稲盛和夫氏は、「(相手を批判する前に)まず相手の靴を履いて歩いてみよう」と語っています。
言葉を放つ前に、まず相手の立場に立って考え抜くこと。その姿勢があってこそ、言葉は相手の心に届く、という意味です。
逆に、相手を知らずに話した場合、致命的なミスが起こる場合もあるでしょう。







