すると、その社長は突然スラスラと、背景や想いも含めて説明をしてくれました。
内容は極めてわかりやすく、むしろ、それまで読んでいた原稿よりもはるかに説得力がありました。
その瞬間、理由がわかったのです。「他人の書いた言葉だから、話しにくいのだ」と。
社長の言葉をよく知る広報担当の原稿だとしても、他人が書いた文章は息継ぎなどのリズムが異なり、また、「間違えないように読まなくては」との意識も働くため、棒読みになりやすい傾向があります。優秀な社長ほど、本来は自分の言葉で語れるはずなのに、会見では話しづらくなってしまうのですね。
危機的状況で問われる
「自分の言葉」で語る力
KDDIのケースでも、「当初は社長自らが技術説明をする予定ではなかった」といわれています。しかし、結果として、技術に精通した社長が自らの言葉で説明するかたちになり、だからこそ、理解の深さと誠実さが伝わる会見になったのでしょう。
さらに、KDDIでは、日ごろから大規模障害や災害のリスクを想定した訓練を繰り返しており、重要設備の復旧訓練や障害対応のシミュレーションなど、年間1000件を超える訓練や研修が行われているともいわれています(*注1)。
危機対応は、その場の話術だけで乗り越えられるものではありません。現場を理解し、リスクを想定し、日ごろから準備をしているかどうか。その積み重ねが、いざという場面での言葉の説得力を生むのです。
では、リーダーは日ごろから何を準備しておけばよいのでしょうか?
まず、大切なのは、最悪のシナリオを想定しておくことです。
自社のサービスが止まったら、顧客や社会にどんな影響が出るのか。そのとき、トップとして何を説明しなければならないのか。これらを平時から考えておくのです。
次に、決して担当者任せにしないことです。
『一目置かれるリーダーの戦略的話し方 アナウンサーが教える言葉を相手に届ける技術』(阿部 恵、三笠書房)
広報部門など担当部署が資料を作成しても、最終的に説明するのはリーダーです。リーダーが内容を理解し、「自分の言葉で説明できる状態」まで整理しておく必要があります。自分の言葉で語れる説明は、聞き手に安心感を与えます。
そして何よりも、誠実に説明する覚悟を持つこと。責任を曖昧にせず、組織として向き合う姿勢を示す。その態度が、聞き手の信頼を支えます。
不祥事やトラブルは、どの業界、どの組織でも起こり得ます。しかし、そのときの対応によって、企業の評価は大きく変わります。
日ごろからのリスク管理と、トップリーダーの誠実な言葉が揃えば、たとえ「危機」であっても「信頼回復」のチャンスに変えることができる――。
KDDI高橋社長の見事な会見は、それを私たちに証明してくれたのです。







