猿がランダムに打った文章も
シェイクスピアに近づいていく

 もしタイプライターの鍵盤を猿がランダムに打ったとしたら、シェイクスピアの『ハムレット』の一節、“Methinks it is like a weasel”(おれにはイタチのようにも見えるがな)を打ち出す確率はいったいどのくらいだろう?

 もちろん猿だけに、可能性は圧倒的に低いはずだ。鍵盤のアルファベットは全26文字。それに空白を1つ足して全27文字の中から、上記の一節をランダムに打ち出すとすれば、最初の1文字「m」を正しく打つ確率は27分の1になる。2文字目も同じ計算だ。すると3文字目の「t」まですべて正しく打つ確率は、1/27×1/27×1/27で、1万9683分の1になる。

 この調子で、一節28文字すべて(空白を含む)を正しく打ち出す確率を計算すると、答えはほぼ「10の40乗分の1」となる。

 さて、ここで登場するのが累積淘汰のメカニズムだ。まず、ドーキンスは猿が打つようなランダムな文章が自動的に次々と生成されるコンピューター・プログラムを作った。しかしこのプログラムは、生成したデタラメな文章をその都度チェックして、目標の一節に(たとえわずかにでも)一番近いものだけを選択し、残りをすべて排除する。そして選択した文章にはランダムな変化を加え――つまり突然変異を起こして――次世代の文章を作り上げ、そのあとまた同様のチェックを続けていく。

 実際に第1世代で選択された文章は“WDLTMNLTDTJBSWIRZREZLMQCO P”だった。そのあと累積淘汰を繰り返したのち、10世代を経て生成されたのが“MDLDMNLS ITJISWHRZREZ MECS P”。20世代を経ると"MELDINLS IT ISWPRKE ZWECSEL"。まったく形をなさない文字の羅列である。

 しかし、30世代を経たところで、類似点が目に見えて現れ出した。“METHINGS IT ISWLIKEB WECSEL”となったのである。そして最終的に、43世代目で、プログラムは正解を叩き出した。かかった時間は、ほんの30分だった。

企業も「失敗と淘汰」で
進化していく

 累積淘汰は何らかの「記憶システム」があれば機能するというのがこの実験から得られる示唆だ。つまり世代ごとに行った選択を記憶し、それを次世代へ、また次の世代へと引き継いでいく。