自然界ではこのプロセスがあまりにうまく機能しているせいか、一部の人々は「インテリジェント・デザイン」という錯覚まで抱くようになった。実際には自然のプロセスにすぎないのに、「動物の造形などの進化は、知性ある何者かによって創造(デザイン)された」と考える人々が存在するのだ。

 ノズルの例も、この錯覚に似ている。最終的にたどり着いた最高のノズルは、実に独特な形をしていた。まるで知性ある何者かがデザインしたかのようだ。しかし、生物学者チームの開発にインテリジェント・デザインの要素などない。彼らはただ進化のプロセス、試行錯誤のプロセスを地道に辿ったのである。

『失敗の科学 成長する組織の条件』書影失敗の科学 成長する組織の条件』(マシュー・サイド著、有枝 春訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 世界には、こうした進化的プロセスを踏襲するシステムが数多く存在する。実際ここ200年の間、大勢の偉大な思想家(注2)が自由市場のシステムを支持しているのは、それが生物学的進化をなぞったものだからだ、とティム・ハーフォードも名著『アダプト思考―予測不能社会で成功に導くアプローチ』(注3)で唱えている。

 自由市場のシステムに適応するため、企業は競合を繰り返す。去っていく者もあれば生き残る者もある。適切な規制が敷かれた市場は、企業にとって実に有益な試行錯誤をもたらす。

 自由市場における自然淘汰は「倒産」だろう。企業の破綻は、ノズルの開発に失敗するときといくらか似ている。どちらも競合他社に比べて何か(製品、価格、販売・PR戦略、製造プロセスなど)がうまく機能していない場合に起こる。弱いアイデアや製品は淘汰され、強いものが生き残り、競合企業によって複製される。ノズル開発における試行錯誤と同じように、進化のプロセスを踏まえた自由市場のシステムは、企業の累積淘汰によって活性化しているのだ。

(注2)哲学者カール・ポパー、経済・哲学者フリードリヒ・ハイエクなど。

(注3)Tim Harford, Adapt:Why Success Always Starts with Failure(Abacus, 2012).(『アダプト思考――予測不能社会で成功に導くアプローチ』ティム・ハーフォード著、遠藤真美訳、武田ランダムハウスジャパン、2012年)